| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第72回全国大会 (2025年3月、札幌) 講演要旨 ESJ72 Abstract |
第13回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)/The 13th Suzuki Award
日本列島は約7500種の陸上植物が分布しており、そのうちの2500種以上が列島固有とされる植物多様性が高い地域である。この高い植物多様性の形成要因として、地形の複雑さや環境の多様さがまず挙げられる。日本列島は大小様々な島からなり起伏も激しく、緯度勾配に沿って亜熱帯から亜寒帯までの幅広い環境を示す。また蛇紋土壌や火山性土壌などの様々な土壌環境や特殊環境もパッチ状に存在し、列島内には多種多様な環境がみられる。こうした局所環境への適応が日本列島の植物の多様化要因の一つであると考えられる。また過去の地史的な要因も日本列島の植生を形作る上で重要であったと考えられる。特に260万年前から現在にかけての第四紀には氷期と間氷期を繰り返す気候変動が起きたとされる。この気候変動は島間の陸橋の形成や崩壊を引き起こし、結果として大陸から植物の移入や、列島内における分布の変遷や分断、再接触が起こったとされる。また大陸とは異なり日本列島の大部分は氷期中も大陸氷床に覆われず、海岸沿いには比較的温暖かつ降水量が豊富な地域も点在していた。他地域では絶滅してしまった植物もこれら地域を逃避地とすることで集団を維持することができたと考えられる。さらにこうした分布の変遷や分断の影響を受ける中で、他生物との相互作用も日本列島の植物の進化をもたらしたであろう。したがって複数の要因が様々なタイムスケールで日本列島における植物多様性の形成に影響したと考えられており、その形成過程を明らかにするためには多様な分類群を用いた多面的なアプローチが必要であると考えられる。
私はこれまで日本列島固有の植物を対象にその進化を駆動した要因や歴史、さらに遺伝基盤の解明を目指して研究を行ってきた。様々な分類群を対象に、次世代シーケンサーによって得られるデータを用いた集団遺伝学的な手法と、訪花昆虫観察や形態測定、栽培実験、生態ニッチモデリングなどの手法を組みあわせることで研究を展開してきた。本講演では私がこれまで行ってきた気候変動と訪花者との関係を通した植物の多様化に関する研究例、分布好適地に数百万年以上隔離されたことによって種分化が起こった第三紀気候遺存種に関する研究例、シカとの相互作用による収れん進化の結果形成された屋久島の矮小植物群に関する研究例などを紹介させていただく。