調査実施前

野外調査を円滑に実施し、かつ、事故発生時に迅速な救援体制を整備するためには、調査の前に、組織体制を整備し、個別の調査計画を策定し、調査準備を進める必要がある。

安全管理のための体制作り

フィールド調査における安全管理の流れ

次ページ以降の2枚の図は、事故対策のフローチャートと緊急時連絡網の例である。フィールド調査における安全管理プロトコルは研究室内で一度作成すれば、多くの部分について次回以降も流用が可能である。各研究室において柔軟性の高い仕組みを作っておくことが望ましい。

 

フィールド調査における安全管理フローチャートの例 

事故発生のシミュレーションと危機対応プロトコルの策定

フィールド調査を行う際には、事前に調査責任者・現場責任者・留守本部連絡担当者、事故対策本部長を決定し、事故発生時の対応についてプロトコルを作成する。以下に、具体的なプロトコル策定の流れの例を示すので、これを参考にして各部署での事故対応プロトコルを作成していただきたい。

1.担当者の決定

 調査責任者は、プロジェクトリーダーや研究室の責任者が担当する。事故発生時には、事故対策本部の招集・現場への指示などを行い、留守本部の要として機能する。このため、調査責任者は当然のことながら、調査旅行の詳細な行動予定を把握しておかなければならない。調査責任者自身が調査旅行に同行する場合には、必ず大学側に代理の連絡先・留守本部担当者を置き、現場からの第一報が入り次第、ここを起点にして事故対策本部が組織できるようにする。事故発生時の具体的対応方法については、2.2項を参照されたい。

 現場責任者は、調査現場におけるグループリーダーが担当する。調査責任者がこれを兼務することもある。現場責任者は調査における事故発生を未然に防止するための努力を行い、事故が実際に発生してしまった場合には、即座に留守本部とのホットラインを開設して現場情報を伝達する役割を有する。現場で責任者自身が事故の被害者になってしまった場合を想定して、必ず代理になる研究者(学生など)を配置し、プロトコルを説明しておくことが必要である。また、海外調査の場合には、カウンターパート、大使館、病院などと即座に連絡が取れるように連絡先の情報を収集しておかなければならない。

 事故対策本部長は、重大事故発生時に研究組織のリーダー(学科長・研究所長など)が任に当たる。調査責任者ないし留守本部から事故発生の第一報を受け取り、事故対策本部を設置する。ホットラインによる事故現場との情報交換、被害者家族との連絡、保険会社への連絡、プレスリリース・webページによる情報開示、捜索資金の調達などを調査責任者・留守本部などと協議して指示をおこなう。事故発生時に大学不在であることも多いので、必ず複数の教員に代理機能を遂行できるように指示しておくべきである。事故対策本部の具体的役割については、2.2項を参照されたい。

2.緊急時連絡網の整備

 緊急時連絡網は、必ず研究部所内で網羅的なものを作成する。研究責任者・現場責任者は、ホットラインの設置方法、調査中の定期交信方法、事故発生時の初動体制などについて協議し、取り決めた内容を明文化したうえで関係者全員に配布する。この際に、留守本部は必ず複数の担当者が対応可能な形にしておくべきである。緊急連絡網を整備するにあたって、現場責任者は保険加入の確認や研究者の個人情報(パスポート番号・保険会社連絡先・血液型・年齢・家族および親族連絡先など)の収集を行い、非常時にのみ使用する情報として厳重に管理する。

(1)緊急時連絡網の例(海外グループ調査)

(2)旅程表の作成例(海外、広域調査の場合)

<調査メンバー>
   本間 権七(B型、1968年7月26日生、パスポートTE3395916)金本 球児(A型、1969年7月16日生、パスポート TE1234567)

<旅程表>
   1月10日:札幌-東京(NH075)
   1月11日:東京-伊丹(NH010)
   1月12日: 関西1425-1840 バンコク(NH 151)
   1月13日:バンコクで乗り継ぎ便待ちのため滞在(定時連絡日)
   1月14日: バンコク 2055-2240 カトマンズ (KTM)(RA 408)
   1月15日・16日カトマンズ(トレッキングビサ取得・調査準備・定時連絡日)
   1月17日から23日: 東ネパール・ソルクンブー県・ジュンベシ村にてフィールドワークカトマンズ-ジリ・・・バス移動、パプル-カトマンズ・・・飛行機移動カトマンズから23日に定時連絡
   1月24日 カトマンズ1240-1345 ボンベイ(IC 748)
   1月25日 ボンベイ 1940-0625+1 関西(NH 956)
   1月26日 関空より直行便で札幌(関空より定時連絡)
(注)航空会社略号;NH: 全日空、RA: ロイヤルネパール航空、IC: インディアン航空

<連絡先>
   現地連絡先(1月24日まで):Pasang Sherpa (カトマンズ) tel. +977-1-473025(日本語可)
   国内連絡先1:甲山喜八郎(京都大学教授)tel. 075-725-2922(自宅)、075-645-8504(研究室直通)
   国内連絡先2:本間禎之介tel.03-3452-1234(自宅)、03-9876-5432(オフィス直通)
   国内連絡先3:金本耕太郎tel.06-878-1234(自宅)、06-1234-5678(会社代表)

<保険等>
   海外障害保険:ANA-VISA (AMAカードセンター(03-5489-9090)カード番号:本間;1234-5678-9012、金本;9876-5432-1098)
   山岳保険:日本山岳協会一般共済(担当:住菱海上火災公務開発部営業3課tel.03-1234-5678)

 

(3)略式の旅程表の作成例*(国内、固定調査地でのルーチーンワークの場合)

   大原様・墨田様・野栄様

   本間です。来週の月曜日からの道北調査の予定、以下の通りです。よろしくお願いします。

<メンバー> 本間、金石、松本

<旅程> 6月10日:札幌(昼発)-名寄-母子里(夕方着)
            11日-14日:207林班・ササ刈りサイト調査(上村同行)
            15日-16日:興部ササ枯れサイト調査(15日夜に金石は電車で帰札)
            17日:母子里(朝発)-札幌(昼着)

<連絡> 17日(9時位に大原部屋にかけます)本間携帯090-9876-5432、松本携帯090-3456-7890

<宿泊> 母子里学生宿舎(10-16日)

<車>  エスクード(本間号)京都54み5161

<保険> 連絡網の通り

<緊急連絡先>  連絡網の通り

*:ルーチーンの仕事をしている調査地で、緊急時の連絡網や事故対策が事前に整備されている場合は略式(メンバー・日程・交通・宿・連絡方法の通達など)ですむ。表にして研究室内の黒板や掲示板に書いておいてもよい。 [#v1e1d885]

 

(4)届出の例

 

 

(5)個人情報管理の例