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水辺での調査

 ひとくちに水辺の調査といっても対象とする生態系のタイプ(上流域、中流域、下流・河口域、潮間帯海岸、潮下帯、沖合・外洋)および研究方法により大きく異なる。特に、沿岸や外洋におけるスキューバ潜水や船舶を利用した調査については、必要な資格の取得およびその際に求められる法令や規則の遵守が前提となる。その安全対策については、それぞれ専門の情報を参照にしてほしい(下記に関連情報を引用)。また、スキューバ潜水や船舶については調査を行う研究機関等に安全管理に関する規則がある場合が多いので、それを遵守すること。ここでは上記のような資格が不要で、かつ研究者および学生が個人的に行うことが多い、水辺の調査(徒歩による河川や潮間帯の調査、スノーケリング、小型船舶を利用した調査)の注意点を中心に説明する。

1.徒歩による調査

(1)装備

 一般に徒歩で水域調査を行う場合は、長靴や胴長(ウェーダー)を使う場合が多い。胴長の問題点については既に記述した を参照されたい。移動時だけでなく、調査中も常に足場が悪く、流れのある水の中に留まっている場合(転倒、浸水の危険性が高い場合)は、ライフジャケットを併用する。ライフジャケットは、海洋・湖沼での事故時の生命線とも言えるものであり、購入や装着には充分な注意が必要である。例えば、シーカヤッキングでは緊急時に浮力体で充分な浮力を得るための目安は、設計浮力が体重の十分の一を超えていることと言われている。普段着の上から装着する際には、服が水を吸うことなども考慮して8kg以上の浮力がほしい(成年男子の標準的体形の場合)。ヨット用ジャケットなどでは波浪を考慮して15kg以上の浮力のものも登場してきている。一方、釣具店などで販売されているものや船に備え付けの廉価なものには、浮力不足のものが多いので注意が必要である。

 水温が暖かい時期・場所で水に濡れる調査を行う場合は、濡れることを前提とした服装(即乾性のジャージなど、全身タイプの水着、ウェットスーツ)が必要になる。ただし、水着やウェットスーツ以外の着衣の場合は泳ぐのが難しいので気をつける(着衣での水泳の訓練をする機会を設けることが望ましい)。また、日焼け予防や、岩や危険な生物(前述)による怪我を防止するため、暑い時期であってもなるべく肌を露出しない服装が望ましい。また水温と気温が大きく異なる場合は、体調を崩しやすいので(特に水温が高いけど、気温が低い場合)、調査後はすみやかに着替える等の措置を講ずること。

 特に転石帯や岩礁では、特に藻類が付着しているときは非常に滑りやすいので、足元には気をつける。履物は、ソールがフェルト仕様の釣り用長靴やアユ足袋がお勧め。スパイク付長靴や地下足袋は滑るのを防止するには効果的だが、踏みつけにより潮間帯生物に与える影響が大きいので、なるべく使わないほうがよい。岩礁は鋭利な岩やフジツボ・カキなどの固着生物などで怪我をしやすいため、このような場所では、手袋(軍手など)の着用が必要である。また、肌を露出するような服装やサンダルの着用はこの点からも好ましくない。特にビーチサンダルは、かかとが固定のタイプであっても勧められない。

(2)潮位

 潮間帯では潮汐の変化に十分注意する必要がある。各調査地ではどの潮位なら安全に作業できるかを事前に把握しておくことが望ましい。毎日の調査に当たっては潮汐表で当日の潮位を確認すること。なお、潮汐表は予測潮位を示している。実際の潮位(実測潮位)は、天候(高気圧や低気圧の接近時、強風時)によって、予測潮位とは大幅に異なることも頻繁にある。特に平磯や干潟などで調査点が沖合にある場合には、調査後に陸地に戻るまでの時間に十分な余裕をみて行動すること。

(3)熱中症・脱水症対策

調査場所のタイプに関わらず野外調査では対策が必要であるが、夏の海(特に磯)では照り返しのため日射、温度とも周辺より高くなる傾向があるので注意が必要である。着帽、肌を露出しない服装、日焼けクリーム等の塗布、こまめな水分の補給(水よりもスポーツ飲料や塩水のような等浸透圧のものがよい)などに留意するべきである。目の弱い人にはサングラスが有効である。日向での調査で疲れを感じたときは無理をせず、日陰や建物内で休むことも大切である。

(4)高波

岩礁では特に波に注意する。調査前に気象情報により波の高さを必ず確認すること(前述)。特に、またリーフの内側の岩礁や干潟の場合には、高潮時と低潮時で波あたりの程度が異なる場合がある。比較的穏やかな場所でも20-30分に1回は予想外の大きな波がくることもある。また、船舶の航行に伴う波も非常に大きいことがある。なお、波当たりの非常に強い場所での調査では、命綱が必要な場合もある。

(5)泥地

 含泥率の高い泥干潟では埋まって足が抜けなくなる場合がある。あらかじめ干潟の含泥率について事前情報を入手し、ぬかるみが著しいことが予想される干潟については、ガタスキーなど特別な用具を用意する。野外調査中にぬかるみにはまって動けなくなった場合は、膝をつくと接地面積が増えて、かかる体重が分散されるので、抜けやすくなる。胴長の長靴部分が足より大きいと、埋まった時に抜けにくいので、冬山用の厚手の靴下を重ね履きしてから胴長を履くと、足と長靴の密着性が高まって歩きやすく、埋まっても抜けやすい。また埋まりやすい干潟では、たらいやバットに体重をかけて滑らせながら歩くと、楽に歩ける他、(泥で汚れても構わないのであれば)地下足袋・田植え足袋・ダイビングブーツなどが歩きやすい。

(6)人工海岸

いきなり堤防がなくなったり、堤防が老朽化して危険な場合もあるので、あらかじめルートを確認すること。テトラポッドがあるような場所を通過する場合は、落下すると上がることができなくなる危険があるので、特に注意すること。

(7)夜間

太平洋岸の潮間帯では、10月~3月の干潮時の調査は必然的に夜間になる。新たな調査地に夜間に初めて行くような計画は立てないこと。春~夏に調査を開始できるような計画にするか、あるいは昼に潮が引くときに入念な下見を行うこと。

(8)河川、河口域

急な増水に注意し、大雨が直前にあった場合は特に気象情報に注意する(前述)。当日の調査中においても通常よりとは異なる水位だった場合は、調査を続行するかどうかについて慎重に判断する。(河川のダム放流などに対策ついては専門家の加筆が必要、国交省の水位のサイトに言及)

(9)落雷

避難する場所がない沿岸域の調査では特に危険である。調査前に気象情報で確認すると共に、日ごろからどのような状況で雷が発生しやすいかを理解しておく。調査中に雷が鳴り始めたら作業途中であっても速やかに中断し、避難すること。

(10)崖崩れや落石

あらかじめ、調査・観察場所とその周辺の地形について知識を得る。調査中は基本的には、崖の下にはできるだけ近寄らない。通り道の上が崖ならば、立ち止まらずさっさと通り抜ける。調査箇所が崖の下である場合は、調査中は海側だけでなく、崖側の変化にも注意する。大雨や台風の後などは特に崖崩れが起きやすいので、このような場所では仮に当日の天候が良くても調査は控える。崖から水が浸み出しているような場所、新しく崩れたと思われる岩や転石が目立つ場所では、崖崩れが起こる可能性が高いので特に注意する。

(11)津波

地震が生じた場合は、崖崩れおよび津波の危険がある。自治体の防災無線が聞けない場所の調査では、なるべくラジオ等を携行するのが望ましい。体に強く感じる地震が発生した場合は、周辺の地形の変化に注意しながら安全な場所に一旦引き返し、津波情報をいち早く確認し、必要に応じて避難すること。

2.スノーケリングによる調査

 ライセンスが不要なので、スキューバ潜水より気軽に行うことができるが、法令や規則が整っていないので、より一層自己責任による安全管理が求められる。初心者は、決して単独あるいは初心者同士だけでは行わず、熟練した調査者に帯同すること。できればスキューバ潜水の時と同様に潜水士免許や民間団体が発行するCカードを取得していることが望ましい(後述)。

(1)装備

習熟者においても、初めての調査海域の場合は、その環境条件(気象・海象条件、地形、エントリー・エグジットポイント・危険生物等)について事前に十分な情報を得るか、あるいは現地を習熟している人と作業すること。岩や危険生物による怪我を回避するためウェットスーツ等を必ず着用し、肌の露出を避けること。

 調査前の体調管理には十分留意する。特に喉・鼻・耳が不調のときは調査をしない。入水後に体調の不安を感じた場合は、無理をせず調査を中断する。調査後は速やかに着替えるなど体調管理対策を行う。

(2)調査体制

 スノーケリングであってもバディ体制による調査が強く望まれる。二人以上の集団で調査するときには、リーダーを明確に設定することも安全対策上重要である。特に、研究指導者が学生をスキューバダイビングの調査に帯同する場合には、学生のスノーケリングのスキルを(例えば安全な海域で試す等の方法により)十分に把握し、未熟と思われる者を決して同行させてはならない。

(3)緊急時の対処法

 途中ではぐれた場合の対処方法を決めておいたほうがよい(あらかじめ定めた集合地点に上がって待機するなど)。また、リップカレント(離岸流)で沖に流されたときは、流れに逆らわず海岸線に平行に移動して、離岸流がない場所から接岸・上陸する。河口に近い場所や砂泥底の調査では、大雨による増水や波による撹乱によって透明度が非常に低下する場合がある。特に初心者は視野を確保できない場合はパニックを起こしやすいので、指導者は調査の可否の判断を慎重に行うこと。調査機材の携行に関して、調査用品を手で持って行くだけでは、調査に没頭している間に置き忘れる等により紛失することがある。ストラップやカラビナで体に付着させることにより水中で紛失しないような工夫をすることが望ましい。ただし、調査機材が足手まといになってうまく泳げなくなることがあるので、付着方法についてはあらかじめ十分に検討すること。調査同行者が溺れたりパニックを起こしていたりした場合には、浮くものを投げる等して救助する。やみくもに接近するとしがみつかれて自分が危険になる場合もあるので、十分気をつける。救出法、救急救命法について講習を受けておくことが望ましい。

3.スキューバ潜水による調査

 研究調査におけるスキューバ潜水は、レジャーダイビングではなく、業務潜水と見なされる。従って、民間団体が発行するスポーツダイビングのCカード等の潜水ライセンスだけでなく、労働安全衛生法の規定に従って潜水士免許を取得することが必要である。スキューバダイビング調査時の安全管理・対策については、上記資格に関連する各団体が定める規定を遵守すること。以下は研究調査でスキューバ潜水を行うときの一般的留意事項である。

(1)安全対策

研究指導者が学生をスキューバダイビングの調査に帯同する場合には、たとえ上記資格を取得している者であっても、研究指導者は該当者そのもののダイビングのスキルを(例えば安全な海域で試す等の方法により)、十分に把握し、未熟と思われるものを決して同行させてはならない。

研究機関や民間団体のダイビングサービスを利用せずに、研究者および学生自身がスキューバ潜水を行う場合は、安全管理に特に配慮する。陸上で待機するメンバー(あるいは宿泊先等)に予定を周知し、予定時刻を過ぎても戻ってこない場合の対策を事前に決めておく。調査に当たっては、緊急時の連絡先(減圧治療装置を備えた病院など)を事前に確認する。また、潜水前に体調や装備品を確認するチェックシートを準備するのが望ましい。また、調査後には必ずログを付け、次回以降の調査への留意点を申し送る。調査同行者が溺れたりパニックを起こしていた場合には、資格獲得時に学んだ救助法に基づき、適切に行動する。やみくもに接近するとしがみつかれて自分が危険になる場合もあるので、十分気をつける。

(2)定期講習

潜水調査の間隔が長く空いた場合は、講習を受ける等により、ダイビングスキルの維持に努めることが必要である。プロのダイビングインストラクターが同伴するレジャーダイビングと異なり、万が一の事態が生じた場合は、調査者自身が救助を行う必要がある。そのため、できる限り、ダイビングの安全講習を定期的に受けることが望ましい(民間のダイビング団体や研究者主導の安全講習会等も定期的に開催されている:要情報)

4.小型船舶による調査

(1)装備品(別途、表を参照すること)

ライフジャケット: 乗船中は常に着用しなければならない。落水時にライフジャケットが抜ける可能性があるので紐はしっかりと結んでおく。従来の発泡スチロールなど浮力材の入った固定式のもので作業に支障が生じる場合は、手動または自動膨張式のものも有用である。動力船の場合は、航行区域や船の種類に応じて装備すべきライフジャケットの浮力や装備品(笛など)が異なるので注意が必要である。

あか汲み: 船底にたまった水(ビルジ)を汲み出すため、必ず乗せておくこと。特に、船上で採水や採集などの作業を行った場合はビルジがたまりやすいので注意する。

錨: 船を定点に固定するだけでなく、座礁や機関故障などの事故時にも必要となるので小型のものでもよいので積んでおく。

オール: 動力船(船外機船)であっても、機関故障時に対応するために積んでおく。また、機関が使えないような浅瀬を航行する場合にも有用である。

その他の装備品: 動力船では救命浮環や信号紅炎などの法定装備品を積んでおくことは当然であるが、手漕ぎのボートであっても、スペースがあればこれらの装備品を積んでおくことが望ましい。動力船の場合は、機関故障に備えて簡単な工具は必ず積んでおく。

(2)船上での行動

 船のバランスに常に注意を払うこと。特に、荷物の積み方には注意が必要である。特に、積載量が大きくなると安定性を失うので、荷物の積みすぎや定員に注意すること。また、船上で立ち上がったり、船を乗り移ったりする行為は極力避けるべきである。

離着岸や船同士を接舷する場合は手を挟まれることがあるので、船の縁に手をかけてはいけない。作業中の船上では、調査機材やアンカーのロープがいたるところに置かれている。これらに引っ掛かって転倒しないように注意すること。また、作業中も常に整理整頓を心がける。調査機材やアンカーを水中に投入する際は、ロープが脚などに絡まないか注意する。特に、わがねたロープの中に脚を入れる行為は厳禁である。小型船舶では片舷から調査機器を水に下ろして作業する場合が多い。特に採泥器のような重機器を上げ下げする場合は、舷の反対側により多く人が立つなど、バランスをとるように留意する。

船の種類を問わず、定置網、刺し網などの漁具に近づいてはならない。これらは水面で見るよりも水中で大きく広がっていることが少なくないので、出来るだけ距離をとる。

(3)緊急時の対処法

救助を要請する場合は、両手を大きく上下に振る。逆に、平時に船上で両手を振る行為は誤解の原因となるので慎むべきである。ボートから落ちて船外機のスクリューに巻き込まれると大怪我をするため、とにかく船からは落ちないように努める。万が一落水した場合は、慌てずに救助を待つ。

(4)調査時間の確認

朝のうち凪いでも、午後から風が出ることはよくある。船で調査をする場合は風を考慮に入れ、早い時間に仕事を済ませること。また、陸上でわずかな風と感じる場合、さえぎる物のない海の上では強風である場合が多い。小さな船にはトイレがない場合が多いことを念頭に置き、船の調査の場合には、調査時間がどのくらいになるかあらかじめ船長などに聞いておき、参加可能かどうか自己責任で判断すること。

5.大型船舶

 大型の研究船・実習船、漁業調査船による野外活動の場合は、それぞれの船および所属する機関が定める規定に従い、漁船の場合は船長を初めとする乗組員の指示に従うこと。