主催: 一般社団法人 日本生態学会

日本生態学会 第20回公開講演会

街のなかの多様な生き物と街を支える生態系

日時:2017年 3月18日(土)14:00~17:00
会場:早稲田大学早稲田キャンパス  大隈記念講堂・大講堂
事前登録不要、入場無料

日本生態学会では、会員が研究の成果などを分かりやすくお伝えする公開講演会を開催しています。 東京で開催される今回の講演会のテーマは、都市と自然とのかかわりです。

街で暮らす多くの人々にとって、さまざまな生き物と生態系からなる生物多様性はかならずしもリアルなものとして感じられません。 しかし、街での生活も地球上の生態系に支えられています。また、都市やその近郊にも多様な生き物が暮らす生態系があり、 生物多様性を支える場ともなっています。こうしたことに街で暮らす人々が気づき、生活と社会のあり方を見つめ直すことで、 都市という存在と生物多様性との両立も可能となるでしょう。近年、世界でにも都市生態学の研究が盛んになっており、 日本国内でもいろいろな研究が行われています。 この講演会では、おもに生態学者の視点から、街で暮らす人々にとっての生物多様性と生態系の意味を考えてます。

講演プログラム

1.街で自然を考える 宮下 直(東京大学)

都市は決して自然が豊かとは言えませんが、少なくない生態学者が都市の自然に注目しています。 そこには意外な生物が暮らしていますし、 都市近郊にも希少な生物が分布するホットスポットが存在しています。 この講演では、都市の広がりとともに自然が蝕まれてきた歴史を振り返るとともに、 都市を人間と自然の関係を創りだす場としてとらえ、街で自然や生き物を考えることがなぜ大切なのかを考えます。

2.都市に住むことを選択した鳥たち  三上 修(北海道教育大)

都市環境にはスズメ、ハト、カラスをはじめとした鳥たちが生息しています。 いっぽうで、都市ではまず見られない鳥たちもいます。 都市にいる鳥、いない鳥はなにが違うのでしょうか。 都市は、そこに暮らす鳥にとってどういう環境なのか、 都市に住むと何かよいことがあるのかを探ります。 さらに、都市に鳥がいてくれることには人間にとってどのような意味があるのかについても考えます。

3.都市に在来種を植えて自然の恵みを享受する  三輪 隆(竹中工務店)

都市のみどりは心地よさや街の魅力を生む必須の要素です。 日本の都市緑化では、見た目の美しさや病虫害に対する抵抗性、手入れのしやすさなどを重視して種が選ばれがちで、 自然生態系との調和まではあまり考えられていませんでした。 けれども、近年は日本でも在来種を利用した緑地作りが加速しつつあります。この講演ではその実例を紹介するほか、 都市の民間地での生物多様性の保全をサポートする仕組みについても紹介します。

4.都市で再構築する人と自然の関係  曽我 昌史(東京大学)

野原を駆け回り、昆虫を捕まえる。河原や林で遊ぶ。最近、そんな自然体験をする子供が減っています。 こうした社会の「自然離れ」は日本だけで見られる現象ではありません。 自然体験の消失は、人にとって、そして環境の保全にとってどのように問題なのかを考えます。 また、街に暮らす人々と自然との関係を再構築するにはどうしたらよいのか、 都市計画と教育・啓蒙の二つの視点から、その方策をご紹介します。

5.都市の自然の質を支える指標、ガバナンス、協働  香坂 玲(東北大学)

自然の恵みという言葉でくくられてきた都市部などの「自然の価値」や恵みを数値化したり、 なんらかの方法で計測して「見える化」しようという動きがあります。 生物多様性の保全の意義を広く共有するためにも、生物多様性の価値を「見える化」する必要があるでしょう。 そうした指標などを活用しながら合意形成や意見を募ることも重要です。 生物多様性の保全や豊かさの指標とその活用のしかたをご紹介します。

6.都市の生物多様性を守る  沼田 真也(首都大学東京)

生物多様性を保全することで、私たちは様々な自然の恵みを受けることがでます。 いっぽうで、生物を保全することで人間にとっての不利益が生じることもあります。 保全の対象となる生物でも数が増加すると害獣となってしまうケースも多々ありますし、 スズメバチなど都市にも生育する生物の危険性の情報に触れることで、人々の生物に対する認識は ネガティブなものになるかもしれません。 こうしたことを踏まえたうえで、都市の生物多様性を守るために何をすべきかを考えます。

7.これからの都市計画・デザインと生態系  飯田 晶子(東京大学)

欧米諸国では,いろいろな理由で人口が大きく減った都市が出現しています。 日本でも,少子化の進展によって人口は減り始めました。 都市の人口が減ると、空き家・空き地・耕作放棄地などの低未利用地が増えてきます。 ネガティブに捉えられがちな低未利用地の増加は,都市における“生態系サービス向上の契機”と捉え直すこともできます。 ユニークな発想で低未利用地を自然的土地利用に転換させた国内外の事例をご紹介しながら,都市縮退の時代に求められる都市計画・デザインの方向性を展望します。

本講演会はJSPS科研費16HP0031の助成を受けています。