| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) B1-11

シオジ天然林における20年間の開花結実周期

崎尾均(埼玉県農総研)

樹木の開花・結実には豊凶のあることが知られている。しかし、その適応的意義やメカニズムについては長期観測データが少ないため、仮説やモデルの段階にとどまっている。本研究では、奥秩父渓畔林の林冠木優占種であるシオジを対象樹種として20年の長期間にわたって開花結実現象を追跡した。シオジはモクセイ科トネリコ属で雄株には雄花、両性株には両性花をつける雄性両全性異株の高木である。1987年から調査地内(0.54ha)に直径1mのシードトラップを20個設置し花や種子の回収を行った。また、双眼鏡による目視で個体ごとの開花・結実量を測定した。調査地内のシオジは両性・雄・未成熟がそれぞれ29・22・11個体であった。両性株と雄株のサイズ(胸高直径)には差が見られなかった。しかし、調査期間の胸高直径の増加量は、雄株が両性株より有意に大きかった。このことは、雄株では繁殖への投資量が小さいため資源を個体の成長に投資していることを示唆している。シオジの開花には明らかな年変動が見られ、3−4年のかなり安定した周期性を持っていた。3−4年に一度、全く開花・種子生産を行わない年が訪れた。ただ、その量は連続的であり、はっきりとした豊作と凶作の差は見られなかった。開花は個体間で同調する傾向にあり、両性株と雄株の開花も同調した。雄株が多く開花した年には、両性株の開花も多く、成熟種子も多く生産された。これらの結果は、個体ごとの開花・結実量でも同様の傾向がみられた。これらの年変動や同調性を説明する外部要因を気象条件に求めて解析を行っているが、現在のところまだ見いだせない。しかし、2001年以降はこれらの安定した年変動に乱れが生じ始めた。開花周期が短くなるとともに雄株と両性株の間の同調性も小さくなった。この原因については、現在のところ不明であるが、ここ数年の春から秋にかけての高温の影響が考えられる。

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