| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) B2-07

河床堆積物に含まれる種子と土砂粒子の沈降速度の関係

*吉川正人,星野義延(東京農工大・共生科学技術),岩田直人(東京農工大・農)

礫床河川の水際には,増水によってもたらされた新しい堆積物上に,一年生草本を主体とする先駆的な植物群落が形成される.これまでの研究で,このような植物群落の成因として,土砂とともに構成種の種子が供給されていることが示されている.土砂の粒子は流速によってふるい分けされ,高い分級性をもって堆積するので,そこに含まれる種子も土砂粒子とともにふるい分けされていると考えられる.したがって,河川の土砂管理による堆積土砂の粒径や供給量の変化は,群落の種組成や分布量に影響を及ぼす可能性が高い.そこで本研究では,群落構成種の種子の沈降特性を調べ,堆積土砂の粒径が植物種子の供給に与える影響を明らかにすることを目的とした.

春季と夏季に河辺の水際に発達する植物群落の構成種のうち,72種の種子を採取し,静水中での沈降率と沈降速度を測定した.種子の沈降特性には4つのパターンがあり,沈降性種子(35種),吸水沈降性種子(22種),半浮遊性種子(5種),浮遊性種子(10種)に区分できた.春季の群落構成種の大半は沈降性または吸水沈降性種子をもつのに対し,夏季の群落の構成種には浮遊性や半浮遊性種子をもつ種も含まれていた.したがって,春季の群落構成種の種子は,夏季のものよりも土砂に混合して運搬されるものが多く,土砂の沈降とともに供給されている度合いが大きいと考えられた.沈降する種子のうち,大半の種子の沈降速度は0.5cm/秒から5.0cm/秒の間にあった.これはほぼ直径0.05mmから0.3mmの土砂粒子の沈降速度に相当するものであった.このことから,沈降性の種子は,主に粒径0.3mm以下の微細土砂とともに堆積していると考えられた.群落形成のためには微細土砂の供給が必要であり,微細土砂の供給量の増大は一年生草本群落の成立立地の拡大をもたらすと推定できる.

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