| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) C2-01

自然水域に侵入した外来病原ウイルス

*内井喜美子, 川端善一郎(総合地球環境学研究所)

強い感染力と高い致死性を特徴とするコイヘルペスウイルス(KHV)は、1998年、イスラエルとアメリカの養殖場で大量死を起こしたコイ(Cyprinus carpio)から初めて単離された新種のウイルスである。急速に世界中のコイ養殖場に広がったKHVは、2003年日本に到達し、全国で養殖コイを死亡させた。翌2004年にはKHVは自然水域にまで侵入し、野生のコイの大量死を引き起こした。琵琶湖では、2004年、10万匹以上のコイがKHVにより死亡し、2005年以降も散発的にKHVによるコイの死亡が確認されている。KHVによるコイの死亡が続く理由として、琵琶湖水域中に生残したKHVにより持続的な水平感染が起こっていることが考えられる。特に、感染後生き残ったコイ(感染耐過コイ)が抗KHV抗体を獲得し抵抗性を高めること、および、KHV曝露後2ヶ月を経たコイからKHVが検出されることより、感染耐過コイの体内にKHVが生残していることが予想される。そこで本研究では、2006年、琵琶湖で捕獲したコイについて、感染経験の有無(抗KHV抗体量の測定)およびKHV保持の有無(組織からのKHV遺伝子の検出)を明らかにし、自然水域において感染耐過コイがKHV感染源となる可能性を検証した。

結果、高い抗KHV抗体量を示した感染耐過コイのうち、数個体の組織からKHV遺伝子が検出された。このことは、感染耐過後、体内にKHVを保持している個体が存在することを示した。さらに、抗KHV抗体量の少ないコイ数個体からもKHV遺伝子が検出され、近い過去まで未感染であったコイが新たにKHVに感染したことが示唆された。これらの結果から、琵琶湖水域において、感染耐過コイ体内に生残したKHVが感染源となり、水平感染が繰り返されている可能性が示唆された。

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