| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) D1-10

昆虫による卵食と種子食の比較生態学

広瀬 義躬(九大)

動物の卵と植物の種子は、生活史の最初の発育ステージであること、他の発育ステージよりも小型であるが栄養に富み、かつ大量に存在すること、移動能力を持たないこと、などの共通点を持つ。そのため、動物による動物卵と植物種子の捕食を比較すると、捕食者である動物の側でも類似の生態や行動が見られることがあり、また被食者である動物卵と植物種子が捕食されやすいとすれば、これら被食者の個体群に対する捕食の影響も類似する可能性がある。このように、動物による卵食と種子食を比較しながら、捕食―被食関係を考察することは意義があると考えられるが、これまでそのような試みはほとんどなかった。今回、演者は動物卵あるいは植物種子を捕食する動物のうち昆虫を対象に、昆虫による卵食と種子食の生態を比較・考察することを試みた。まず、従来は種子捕食(seed predation)を行う昆虫とされてきたものでも、マメゾウムシ類や種子食コバチ類などのように、実は種子の捕食寄生を行うものがあることを指摘したい。これらの種子食者は種子捕食寄生者(seed parasitoid)と呼ぶべきであり、昆虫の卵寄生蜂などの卵捕食寄生者(egg parasitoid)と同様、捕食者というより寄生者の特性(寄主サイズ以下の寄生者サイズ、既寄生寄主の識別、など)を持ち、寄主となる種子に特殊化していることが多い。また、捕食者に対する防御として、植物種子が動物卵より有毒化学物質の含まれることが多いため、昆虫の捕食に対し生存価も高いかどうかは今後の検討課題である。動物卵と植物種子の寿命の違いも昆虫による捕食に影響しそうであり、動物卵と植物種子の共通点だけでなく相違点にも留意して卵食と種子食の比較を試みる必要がある。昆虫、さらに広く動物による卵食と種子食の生態を比較すれば、関連する捕食者や被食者の個体群動態や生活史戦略を見直す契機にもなり得ると考えられる。

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