| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) D2-10

カタツムリの一年生と多年生 同胞種の意外な生活史変異

*入村信博(千葉・磯辺高校),浅見崇比呂(信州大・理)

コハクオナジマイマイ(以下コハク)とオナジマイマイ(以下オナジ)は、陰茎内壁を除く形態形質が酷似し、交雑すると、前者からは正常に繁殖する雑種が得られる。自然集団での遺伝子浸透も核・ミトコンドリアDNAのマーカで確認されている。それほど近縁であり、どちらも平地に生息し、人為的な移動分散を被りやすいにもかかわらず、分布域が著しく異なる。オナジはほぼ全世界の温・熱帯、国内では本州以南に分布するが、コハクは主に西日本と房総半島に分布する。ゆえに、コハクの分布域はオナジの分布域に包含されているが、両者が同所的に生息する地点は見つけにくい。房総半島では、コハクが分布を北に広げ、オナジの生息地に侵入してから数年でコハクしか見つからなくなる事例がくり返し観察されている。以上の事実は、コハクは分布が限定され、しかもオナジとは共存しにくいことを示唆している。種間で分布が異なり、変動する原因を追究するには、相互の生態的な差異を知る必要がある。

本研究は、2種の生活史を比較することを目的として行った。房総半島の9地点で1年間、個体群の体サイズ分布を追跡した結果、コハクは1年周期の生活史をくり返していることが明らかとなった。コハクの生息地の地上部では、4月中旬に幼貝が現われ、その約50%が9月下旬までに成熟し、10月中旬から1ヶ月間で成貝がすべて消失する。コハクの殻は、相対重量が9月上旬から減り始め、10月には半減し、殻がボロボロの個体が多く観察された。コハクの生息地では死殻を見つけにくい。コハクの成貝は冬眠せずに死亡すると考えられる。この現象は、オナジでは観察されなかった。オナジの個体群には、年間を通し成貝と幼貝が常に見つかる。以上の種間差は、約80km離れた館山市と東金市で同様に確認された。

日本生態学会