| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-03

ヨロイイソギンチャクとムラサキインコの関係は:競争or共生?

*石川恵,河井崇(九大・理・生態研)

潮間帯に生息する生き物は一般的に,波当たりによる物理的衝撃,干潮時の乾燥・凍結などのストレスを受けやすく,それらに対応できる形態的・生理的特性を持っているものが多い.一方で,イソギンチャクの仲間のように,硬い殻といったストレス環境から身を守るための性質を持っていない生き物は,岩の割れ目やタイドプールといった干潮時でも温度・湿度等の環境が好適に保たれる場所に,その生息可能場所が限定される.

しかし,福岡県糸島郡志摩町の岩礁海岸において,ヨロイイソギンチャクが直射日光にさらされた岩の表面上に,二枚貝であるムラサキインコと混在した状況で多数生息していることが確認された.また同海岸において,ヨロイイソギンチャクはタイドプールや岩の割れ目にも生息していたが,密度・個体数とも岩の表面でムラサキインコと混在しているものが上回っていた.従って,本調査地においてヨロイイソギンチャクは,その生存に対してムラサキインコからプラスの影響を受けている可能性が推測された.一方で,両種は共に固着性であり餌の類似性も高いため,空間及び餌資源を巡って潜在的競争関係にあると考えられる.

そこで,これら2種間の関係を明らかにするために,野外における生息状況評価及び交互排除実験を行った.その結果,ヨロイイソギンチャクの生存率はムラサキインコの集合サイズにより異なり,大集合内において小集合内と比較し有意に高い値を示した.また,ムラサキインコの集合内部において温度環境が外部の岩表面に比べ緩和されており,その傾向は集合サイズが大きいときに顕著であった.さらに交互排除実験により,ムラサキインコによるヨロイイソギンチャクに対するプラスの影響が同様に検出されたが,ヨロイイソギンチャクによるムラサキインコへの影響は検出されなかった.これらのことから,2種はムラサキインコによる環境緩和作用を介した片利共生関係にあると示唆される.

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