| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-06

ダム試験湛水および出水による底生動物群集の構成変化

*藤野 毅(埼玉大学理工学研究科), 浅枝 隆(同), ニンウィリ(同), 高橋陽一(財団法人水資源協会)

2005年10月より試験堪水を開始している荒川水系中津川の滝沢ダムの上流とダム直下を対象に底生動物群集の調査を行った.調査は試験堪水開始前の同年4月から2008年3月まで,ほぼ1ヵ月に1回の頻度で実施した.なおこのサイトでは,荒川ダム総合事業所による自然環境調査の一環として2004年以降,冬(12月),早春(3月),夏(8月)に同様な調査が実施されている.調査期間中の両地点の流量はほぼ同じである.

調査結果および既存データから,試験湛水開始以前からダム上下流間においては生息種数や密度が異なっていることと,試験湛水以降の環境の変化によって下流でこれらがさらに変化したことの2つの形態が確認された.特に試験堪水以降は,下流域のほうがタクサ数,バイオマスともに豊かであることがわかった.バイオマスの増加は主に大型のヒゲナガカワトビケラが早々に定着したことに起因する.また,底生動物群集のダム上下流での出水後の回復過程を比較すると,ほぼ同時期に同程度の回復が見られた.

ダム直下では,ダムの出現によってリターなどの流下有機物量は大きく減少したが,水温は上昇した.ここで,今回調査した河川の窒素濃度は全国レベルで比較すると極めて高く,別途行ったタイルを用いた現地試験結果から,下流では付着藻類の増殖がより速いことがわかった.以上より,ヒゲナガカワトビケラの早々の定着やタクサ数が増加したことの理由として,高い栄養塩濃度と水温の上昇が付着藻類による一次生産量とその回転率を高くし,剥離したものはリターに代わって主要な餌資源になったことが考えられる.CCA解析結果から,以上の出現優占種と環境要因との対応関係は明確に示された.

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