| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-09

湖沼の規模、食物網構造、動物の適応行動とレジームシフト

*加藤元海(京大生態研)

湖沼における沿岸帯植物群落は、動物プランクトンにとって魚からの捕食に対する隠れ家を提供することにより、植物プランクトンの増殖抑制が指摘されている。したがって、沿岸帯植物の消失が突発的な水質の悪化をまねく可能性がある。しかしながら、ブラックバスなどの大型魚食魚が存在する場合、小魚も沿岸帯植物を隠れ家として利用することも考えられる。そこで本研究では、個体群動態モデルに沿岸帯を隠れ家としてめぐるゲーム理論を組み込んだ数理モデルを構築し、突発的な水質の悪化(レジームシフト)の可能性を湖沼の形態(大きさ、深さ)を考慮して予測した。その結果、大型魚食魚が存在している場合でも、沿岸帯植物は一般には動物プランクトンにとってより隠れ家としての役割を果たしていることがわかり、2年前の新潟大会のときに発表している。今回はその結果、沿岸帯植物を介した動物プランクトンと魚の相互作用を通して、湖沼におけるレジームシフトの可能性を調べた。突発的な富栄養化は小さくて浅い湖沼ほどその可能性が高かった。沿岸帯植物の存在は、富栄養化の突発性(レジームシフトの可能性)を高めていることもわかった。本研究は、動物の行動という早いダイナミクスが、流入する負荷栄養塩の変化という遅いダイナミクスと協同して、生態系の状態を大きく変化させうることを明らかにした。

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