| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) E1-10

複雑な食物網を構成する栄養モジュールの安定性とその配置

近藤倫生(龍谷大・理工)

生態系における補食・被食関係を描いたグラフを食物網とよぶ。食物網研究には、二つの対照的なアプローチがある。一方で、理論研究は「食物網構造はその動的安定性によって規定されている」というアイデアに基づいて、3〜4種の生物種からなる単純な栄養モジュールの動態解析すすめ、維持可能な栄養モジュールの具体的な構造を予測してきた。他方、実証研究は、現実の複雑な食物網の詳細なネットワーク構造を調べ、それを結合度、食物連鎖長といった総計的かつ静的な指標で表してきた。しかし、「単純性と複雑性」、「具体的構造と総計的な指標」、「動的と静的」という、二つの研究の間に存在するギャップのため、栄養モジュール研究から導かれた動的理論がどれほど現実の食物網に適用可能かという本質的な問題は未だ答えられていない。現実の食物網には、多数の栄養モジュールが複雑にくみ合わさって埋め込まれている。したがって、栄養モジュール研究に基づく動的理論を現実食物網に適用するためには、複雑な食物網を栄養モジュールに解きほぐした上で、これらの栄養モジュールと外部群集との間の、あるいは栄養モジュール間の種間相互作用を考慮する必要がある。本発表では、外部群集との相互作用を考慮に入れた栄養モジュール動態の数理モデルを構築、解析し、栄養モジュールの安定化には「栄養モジュール自身の内部構造によるもの」と「外部構造によるもの」との二つのメカニズムがあることを示す。さらに、その理論を現実の海洋食物網の構造解析に適用することで、内部構造と外部構造が栄養モジュールの維持に果たす役割の相対的重要性を評価する。この解析によって、現実の食物網ではそれぞれの栄養モジュールが安定な構造をもつばかりでなく、栄養モジュールを取り巻く外部群集も栄養モジュールを安定化させるようにノンランダムに配置されている可能性があることを示す。

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