| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) E2-04

常緑広葉樹と落葉広葉樹の葉の量的防御水準と食葉性昆虫

*長井宏賢(高知大・農・暖地FSセ),今安清光(高知大・農・暖地FSセ),川野浩一(高知大・院・農),米山仰(高知大・院・農)

高知大学嶺北フィールドには同一斜面上で横並びに隣接する極相に近い常緑広葉樹林(以下EBF)と途中相の落葉広葉樹林(以下DBF)がある。そこで、遷移段階の違いが森林生態系に及ぼす影響を解明する目的で、極相種のアカガシと、途中相の樹種であるアカシデ、コナラ、ヤマザクラについて、量的防御特性(葉の縮合タンニン濃度と硬さ)と食葉性昆虫(主に鱗翅目幼虫)の摂食行動(生息密度、現存量、被食面積、虫糞量)との関係を調べた。最終被食面積率は量的防御水準の低い樹種ほど高かった。若葉の時期の鱗翅目幼虫密度は量的防御水準が最も低かったアカシデにおいて桁違いに高く、他の3樹種の密度は低かった。しかし、縮合タンニン濃度が最も高かったアカガシでも、コナラ、ヤマザクラに比べ、必ずしも低密度ではなかった。成熟葉では防御水準と無関係にどの樹種でも低密度だった。調査した3年とも、調査期間を通じて量的防御水準の高いEBFに比べ、量的防御水準の低いDBFで虫糞量が多かった。しかし、どちらの林分でも、鱗翅目幼虫密度が防御水準の高くなる展葉終了以後には低密度で推移したにも関わらず、被食面積率はその後も増加し、虫糞量は展葉終了後の方がむしろ多くなった。被食面積率が増加を続け、虫糞量が多くなる夏の林冠昆虫群集では鱗翅目幼虫に比べ、直翅目、ナナフシ目、甲虫目などの現存量が多かった。若葉の時期には量的防御水準の低いDBFで鱗翅目幼虫による摂食活動が盛んだが、成熟葉では、鱗翅目幼虫以外の分類群の摂食活動が多くなり、鱗翅目幼虫の摂食の場合に比べ、量的防御水準の影響を受けにくいのではないかと考えられた。

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