| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) F2-12

メダカ属魚類の異時性

*川尻舞子,山平寿智(新潟大・院・自然科学)

個体発生における各種器官の発生のタイミングおよび発生速度の遺伝的変化は異時性(ヘテロクロニー)と呼ばれ、生物の形態進化の一要因とされている。異時性が生物の系統発生に果たした役割については様々な議論がなされてきたが、系統樹の情報とリンクさせた研究は未だ少ない。本研究では、分子系統樹が既知であるメダカ属(Oryzias)両腕染色体グループ4種(メコンメダカO.mekongensis、ハイナンメダカO.curvinotus、ルソンメダカO.luzonensis、およびメダカO.latipes)の系統発生における異時性の役割を考察するため、各種の鰭(尻鰭と背鰭)の発生過程を比較した。結果は以下の通り:(1)メコンメダカは他の3種に比べ小さな体サイズで成長が止まり、故に最終的な鰭長も短く、最も幼生形態的特徴を呈した。(2)ハイナンメダカとルソンメダカは、メコンメダカに比べ大きな体サイズまで成長するが故に最終的な鰭長も長く(=過形成)、相対的に過大形態的特徴を示した。(3)メダカはハイナンメダカやルソンメダカとほぼ同じ最大体長を示したが、体サイズに比した鰭の相対伸長率が高く(=促進)、故に最終的な鰭長も最長で、最も過大形態的特徴を呈した。この、鰭長に見られる‘メコン→ハイナン/ルソン→メダカ’という幼生形態的特徴から過大形態的特徴への種の順序は、分子系統樹から推定される系統発生の順序とパラレルであった。この事実は、これら4種の系統発生において、より派生的な種ほど過形成あるいは促進によって過大形態が進化するという定向性の存在を示唆している。発表では、この進化の定向性が、メダカ属全体やダツ目(Beloniformes)全体についても当てはまるかどうかについても検討する予定である。

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