| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) F2-13

左利きホモはなぜ存在しない?魚類左右性の遺伝システムの進化

岡本里花(奈良女・理), 川崎友子(奈良女・理), 堀道雄(京大・理), *高橋智(奈良女・人間文化)

魚類の左右性多型はスケールイーター(鱗食魚)で発見され,強い頻度依存選択により左利き,右利きの頻度が1:1のまわりで振動すること,多くの魚類に存在し,捕食者は逆の利き手の餌をより多く捕食していることなど,様々なことが明らかになってきた.最初のスケールイーターの親子のサンプルのデータから,左右性の遺伝様式は左利き優性の単純なメンデル遺伝と考えられたが,その後の詳しい調査により左利きと右利きを掛け合わせたときに F1 の左右比が 1:1 になり,1:0 が現れないこと,左利きを掛け合わせると F1 の左右比がほぼ 2:1 になることがわかり,優性ホモを欠いていると考えられている.優性ホモが致死だとするとこの現象が説明できるが,負荷が非常に大きいだけでなく,左利きを掛け合わせたときの卵の孵化率が,条件のよいときに 100% に近いということと相容れない.優性ホモを持たないことを説明するもう一つの方法が,左利きの卵と精子が結びつかないとする遺伝的不和合性である.

本研究では左利きホモを持たないための様々な遺伝的不和合性のモデルを考え,左右性が通常のメンデル遺伝となっている状態から,遺伝的不和合性が広まるかどうかをシミュレーションにより調べた.特に1捕食者-1餌系で左利き (右利き) 捕食者が右利き (左利き) 餌を多く捕食する交差捕食により左右性が振動するときに,卵の側が左利きホモの成立を阻止するなど,いくつかの遺伝的不和合性のモデルで,左利きホモを持たないという性質が進化的に有利となり広まることがわかった.左利きホモを持たない性質が広まる理由について,左右性多型の頻度のダイナミクスとからめて議論する.またグループ産卵とペア産卵との遺伝的不和合性の進化の違いについても考える.

日本生態学会