| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) G2-03

ブナ粗大枯死材の分解にともなう微小菌類群集の動態

*深澤遊,大園享司,武田博清(京大・農)

森林生態系において粗大枯死材の分解は、炭素や養分物質の循環や生物多様性に重要な役割をはたしている。枯死材を分解する生物群としては、担子菌類や子嚢菌類を主に含む大型菌類がこれまで注目されてきた。一方、不完全世代の菌類や接合菌類を主に含む微小菌類について、枯死材分解にともなう群集動態を調べた研究は少ない。微小菌類の材分解力は大型菌類に比べ小さいが、大型菌類の生育に不適な高含水率の条件下で材に軟腐朽を起こす菌類などを含み、枯死材分解を理解する上で無視できない。本研究では、冷温帯天然林においてブナ倒木の分解にともなう微小菌類群集の動態と、材の物理化学性との関係を調査した。

調査対象とした、1から5まで様々な分解段階の倒木を含む50本のブナ倒木(直径13−53cm)の材内部から、不完全世代の菌類80種、接合菌16種を含む96種の微小菌類を分離した。分離頻度の高かった18種の菌類は、発生パターンのクラスター分析により4つのグループ(A、B、C、D)に分けられ、倒木の分解にともないA、B・C、Dの順に遷移が認められた。また、材の物理化学性に対する菌類の発生の相関関係はグループ間で異なっていた。グループAの菌類の多くが材密度と有意な正の相関があったのに対し、グループB、Cの菌類の多くは材密度と有意な負の相関があった。さらに、グループDの菌類では含水率や窒素濃度と有意な正の相関が認められ、これらの変数が微小菌類の遷移と関係が深いことが示唆された。グループB・C・Dには軟腐朽菌や二次腐生菌が多く含まれていた。また、グループBやDの一部の菌類に、材のリグノセルロース指数(リグノセルロース中のホロセルロースの割合)と負の相関関係が認められ、これらの菌類によりホロセルロースが分解された可能性が示唆された。以上から、微小菌類がホロセルロース分解を通して枯死材分解に寄与している可能性が示唆された。

日本生態学会