| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) H2-12

核磁気共鳴法(NMR)による有機物分解過程におけるリター成分組成の経時的解析 −スギ、ヒノキ、ブナ、ミズナラ落葉を対象にして−

小野賢二, 平井敬三(森林総研東北), 森田沙綾香, 大瀬健嗣, 平舘俊太郎(農環研)

有機物の腐植化ステージにおける化学構造的な変化を明らかにするため、各分解段階におけるリターおよび表層土壌の有機化合物の組成を北関東地方の3林分において解析した。13C CPMAS NMRスペクトルより計算した炭素画分の組成変化は3林分とも腐植化過程を通じて同様な傾向を示した。主としてホロセルロースのシグナルであるO-アルキル態Cの炭素割合は、腐植化の進行に伴い動的に減少した。この結果は易分解性のホロセルロースが難分解性のリグニンなどに比べ選択的に分解されたことを示唆しており、従来報告されている近似的逐次抽出法による多糖類の挙動と傾向は一致していた。ポリエチレン態Cに代表される脂肪酸態Cの組成は、有機物の腐植化に伴い徐々に増加した。これは、脂肪酸態Cがリグニン鎖のエステル結合の優先的な分解、芳香環開裂等により生じた二次的分解産物、あるいは糖鎖構造の微生物的変換によって生じた二次的生産物と予想される。アリール基CやO-アリール基を反映した芳香族態Cの組成は腐植化過程を通じて一定であった。この結果は芳香族態Cがホロセルロースなどの易分解性成分に比べ残留しやすいことを示唆する。カルボニル態Cの組成は腐植化過程においてわずかではあるが徐々に増加した。このことは、エネルギー資源に乏しい土壌生態系における土壌有機物生成過程では酸化分解反応が卓越しているため、カルボニル態Cが生成された結果を反映しているのだろう。

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