| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) H2-15

極域生態系において養分添加が溶存有機物(DOM)動態に与える影響

保原 達(酪農学園大),阿江教治(神戸大),木庭啓介(東京農工大)

陸上生態系土壌において、溶存有機物(DOM)は炭素、窒素、リンなどの多量元素の動態のみならず微量金属などの動態にも深く関わり、生態系の様々な物質循環プロセスにおいて重要な役割を果たす。本研究では、DOMを多量に含有する有機物層が土壌表層に厚く堆積している極域ツンドラ生態系において、リン及び窒素の添加がDOM動態に与える影響を明らかにすることを目的として調査を行った。調査は、アラスカ州ブルックス山地北斜面のLTERサイトにおいて、リン及び窒素の>20年施肥区を使用して行われた。その結果、まずリン施肥区では、対照区に比べ有機物層から抽出可能なDOC量が多く、さらに土壌溶液中のDOC濃度も高かった。このことから、リンの添加はDOMの溶出増大をもたらすことが示唆された。P2O5として施肥されたリンは、土壌で無機態のリン酸の蓄積をもたらし、これがDOMよりも土壌のイオン交換サイトへの吸着力が強いためにこのような現象が起こると考えられた。一方で、窒素施肥区では対照区に比べ土壌溶液中のDOC濃度が低く、窒素の添加はDOMの溶出を減少させることが示唆された。窒素の無機化産物であるアンモニアや硝酸は、リンのようなイオン交換サイトへの影響は小さいため、窒素の添加はむしろ微生物活性に影響し、低分子有機物であるDOMの分解を増大させたものと考えられる。また、土壌溶液中DOMの分子量分布をサイズ排除クロマトグラフィーにより調べた。その結果、処理区によらず、リン処理区、窒素処理区、対照区のどれもでDOMは同じ保持時間の一山型の分子量分布を示すことが分かった。これらのことから、添加する養分が異なるとDOMの量は生化学的作用により変化を生じうるが、DOMの質的変化、特にサイズ的変化は非常に小さいと考えられた。

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