| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(口頭発表) I2-02

「破堤の輪廻」におけるレジスタンスとレジリアンスのトレードオフ・メカニズム

谷内茂雄(地球研)

近代日本においては、1896年の河川法制定を機に、河床の掘り下げと堤防で洪水を封じ込めて、いち早く下流から海に流し込むことで安全性を確保する治水政策が国によっておこなわれてきた。堤防の囲い込みによる河川の制御は、洪水の発生頻度を下げる一方、本来、下流の氾濫源において自由に開放されていた洪水エネルギーのポテンシャルを高めることになる。さらに、物理的な堤防の高化と洪水頻度の減少は、地域住民の安心をよぶとともに、従来は湿地・田畑であった下流沿川の宅地化・都市化など、地域社会の高度な土地利用を誘引する。ここに、生起確率は低くとも、その堤防の許容量を超える降雨が稀に発生すると、破堤の際、大きな災害を引き起こすことになる。実際、淀川水系の治水の歴史においても、物理的な堤防高化が、洪水ポテンシャルの増加と土地利用の高度化を誘引し、それが頻度の低い大きな降雨によって破堤、その結果、ますます高い堤防を築く...というサイクルが確認されている(「破堤の輪廻」)。このプロセスは、さまざまな規模の降雨が確率的に起こる場合、堤防の高化により洪水頻度を下げる(洪水へのレジスタンスを上げる)治水方針が、結果として河川の洪水ポテンシャルを増すと同時に、地域社会の安心と忘却を生み出すことで、長期的には洪水に対応する社会制度や技術を失わせてしまう(地域社会の洪水へのレジリアンスを下げる)という、正のフィードバック・ループを始動させてしまうことにあると思われる。本研究では、実際に、河川システム、地域社会システム、そして治水の方針、3者の相互作用を理解するため、まず概念的な数理モデルを立てて解析することを試みる。破堤の輪廻が始動する条件を明らかにすること、また破堤の輪廻から脱却するための社会的な仕組みについて考察を深めることを目的とする。

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