| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-060

マイクロサテライトマーカーを用いた小笠原諸島西島の在来樹種集団における遺伝子流動の解明

*大谷雅人(森林総研), 谷尚樹(森林総研), 吉丸博志(森林総研)

小笠原諸島においては、外来のクマネズミによる種子や実生の食害が固有樹種の主要な更新阻害要因として指摘されている。効率的な駆除のモデルケースとして、2007年3月から、同諸島の無人島である西島(約0.5 km2)において殺鼠剤を用いたクマネズミの全島規模の根絶事業が実施された。結果、島内に生息していた推定2,500頭のすべてが駆除されたか、わずかな個体数を残すのみとなった可能性が示唆された。その後、島内の比較的湿潤な立地を中心に在来樹木の実生の増加が観察されており、植生の回復が順調に進みつつある。

西島においては毎木調査により現存するほぼすべての親木の位置が把握されているため、島外からの移入および島内での遺伝子流動を正確に推定することが可能である。こうした情報は、クマネズミ駆除の影響評価にとどまらず、アカギなどの外来樹種の伐採事業後の森林再生において効率的な指針を策定するためにも重要である。本研究では、西島に生育する小笠原固有樹種のうち最も実生の密度が高く、乾性低木林の主要構成種のひとつでもあるテリハハマボウ(Hibiscus glaber)を対象として、マイクロサテライトマーカーによる遺伝子流動の解析を行った。

島内で特に実生の密度が高かった南東部の凹斜面に60 m×30 mの調査区を設置し、その内部に出現した実生のうちサンプリングによる生存率への影響が小さいと判断された203個体を解析の対象とした。これらと毎木調査により確認されていたすべての成木(83個体)について、西島産のテリハハマボウに由来する濃縮ライブラリーから開発したマイクロサテライト10遺伝子座(平均対立遺伝子数:16.7;父性排斥率99.99 %)の遺伝子型を決定した。これらの結果から、クマネズミ駆除後のテリハハマボウの実生集団の更新過程について考察する。

日本生態学会