| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-113

交尾中のアジアイトトンボにおける雄の交尾器形態と精子置換

*田島裕介, 渡辺 守 (筑波大・生命環境)

蜻蛉目昆虫では、精子競争に関する研究が盛んに行なわれ、雄が副生殖器の先端の特殊化した付属器を用いて精子を掻き出すなどという精子置換の存在が明らかにされている。しかし、これらの研究の多くは、雌の精子貯蔵器官内の精子の体積の変化に基づいており、雄の繁殖成功度の指標として重要な精子数を直接調べた研究は少なかった。アジアイトトンボの場合、交尾行動は雄の腹部の動きの違いによって、3つのステージに分けられ、ステージIは精子の注入を行なわずに、以前に交尾した雄の精子を掻き出す段階とされてきた。精子の注入は主にステージIIで行なわれ、ステージIIIは交尾後の警護や交尾嚢に注入された精子が受精嚢に移動するステージであるといわれている。本種の雌の精子貯蔵器官は交尾嚢と受精嚢からなり、受精嚢は交尾嚢の基部付近と細長い受精嚢管によって接続している。一方、雄の副生殖器の先端には一対の鉤状の付属器があるので、交尾中、これを用いて精子の除去を行なうと考えられてきた。そこで、交尾中のペアを冷却式殺虫剤で瞬時に凍結させ、交尾態のまま解剖して、付属器の挿入位置を観察したところ、ほとんどのペアで付属器は交尾嚢まで到達していたが、受精嚢まで到達しているペアは発見されなかった。実際、付属器の先端部と受精嚢管の長さと太さを測定し、比較すると、付属器の先端部は受精嚢管より細かったが、短かったので、受精嚢まで到達できず、受精嚢内の精子を直接掻き出すことはできないと思われる。しかし、交尾中断実験を行なうと、ステージI終了直後の交尾嚢でも受精嚢でも、精子数は80%以上減少していた。すなわち、交尾嚢だけでなく、受精嚢からも精子置換が起こっていたのである。受精嚢におけるこのような精子数の減少を説明する機構として、直接の掻き出し以外の仮説を提案した。

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