| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-144

カワトンボ類における精子の質に関する配偶者選択の可能性

*土屋香織(首都大・院・理),林文男(首都大)

メスが複数のオスと交尾する場合、複数のオスの精子が卵の受精をめぐって競うことになる。オスにとっては、生きている精子をいかに多くメスに渡すかが重要になるが、オスの齢によって、あるいはオスからメスへ精子を渡す過程で、生きている精子の量は変化する可能性がある。一方、精子の生存率がメスの卵の受精率に関係するならば、メスは精子の質(生きている精子の割合)が高いオスを配偶者として好むと予想される。

カワトンボ類では、オスからメスへの精子の受け渡しが複雑である。オスは、交尾の前に、精巣で生産された精子を蓄えてある貯精嚢から、副性器にまず精子を移す(移精)。次に、メスが体内に蓄えている精子を掻きだした後、自分の精子をメスに渡す(媒精)。本研究では、カワトンボを対象として、移精や媒精に伴う精子の死亡率を調べた。また、オスの日齢とオスの貯精嚢内の精子の死亡率の関係を調べた。その結果、移精や媒精の過程で、また、オスの羽化後からの日数に伴い、精子の死亡率が高くなることが明らかになった。

カワトンボは、野外では一斉に羽化するため、繁殖期後半には老熟した個体が多くなる。繁殖期の進行に伴うオスの精子の質の変化を調べた結果、繁殖期後期では、生きている精子の割合が低いオスが多くなった。このような精子の劣化は、オスの齢の効果が原因であると考えられた。次に、精子の質によるメスの配偶者選択の可能性を検討するため、メスの内部生殖器内の精子の質が繁殖期の進行に伴ってどのように変化するかを調べた。しかし、メスでは、繁殖期の進行に関わらず、生きている精子の割合はほぼ一定であった。これは、繁殖期後期には、精子の劣化したオスが、メスと交尾できていない(あるいは、メスがそうしたオスを好まない)可能性を示唆するものである。

日本生態学会