| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-163

アリによる選択的捕食がもたらすアブラムシの進化

*高橋聖生(信大・理生物),半田千尋(京大・教育),市野隆雄(信大・理生物)

アリとアブラムシの関係は代表的な相利共生として知られている.アブラムシはアリに天敵からの防衛や衛生面でのサービスを受け,アリは甘露というみかえりを受ける.しかし,アリとアブラムシは常に協力関係にあるわけではなく,ときにはアリの存在はアブラムシに負の影響すら与えうる.同所的に2種のアブラムシが存在する場合,アリは甘露採集源として利用価値の低いほうの種を捕食することが知られている(Sakata 1999).またクリオオアブラムシはトビイロケアリから攻撃を受けるとそれに反応して甘露を排出する.このとき甘露を排出しない場合や甘露の受け渡しが成立しなかった場合は排出した場合よりも捕食率が高いことが示された(Sakata 1994).これらのことからアリは甘露排泄量の少ないものを選択的に捕食するため,アブラムシはより大量に甘露を排出する方向へ進化してきた可能性があると考えられる.これは人間が行う育種と似た現象である.本研究はアリによるアブラムシの育種について検証することを目的として行われた.

育種が起こるためには問題とする形質が遺伝的である必要がある.アリがアブラムシを育種していることを示すためには,甘露排泄量の遺伝分散が存在することを示す必要がある.本研究ではクサアリ亜属のアリと絶対共生関係を結ぶクヌギクチナガオオアブラムシの甘露排泄量について中部地方各地から採集した8クローンを用いて遺伝分散を計った.その結果, 比較的高い遺伝分散と遺伝率が得られた.このことはアリによるアブラムシの育種が実際に起こっていることを示唆する.アリによる淘汰がかかっているにも関わらず,なぜ甘露排泄量に遺伝分散が存在するのかについて議論する.

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