| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-185

寄主たちの沈黙: Dinarmus basalisは寄主の摂食音を用いて性比調節を行なっているのか?

*中村智(筑波大・生命共存),徳永幸彦(筑波大・生命共存)

寄生蜂は雄半数性という遺伝的性決定システムをもつため、雌は産卵する際に子の性を決定することができる。寄主サイズと寄生蜂のサイズとの間には正の相関が見られる。また、寄生蜂では、サイズを大きくすることで得られる適応度が、雄よりも雌の方が大きいと考えられている。これらのことから、寄生蜂はサイズの大きい寄主に雌を、小さい寄主に雄を産卵することが適応的であると考えられる。実際に、寄生蜂が寄主サイズに対して性比調節を行なっている事例が多数報告されている。

Dinarmus basalisは豆の中にいるマメゾウムシの幼虫、または、蛹に寄生する寄生蜂である。この寄生蜂は幼虫の寄主サイズに対しては性比調節を行なうが、蛹の寄主サイズに対しては性比調節を行なわないことがわかっている。一方、寄生蜂の適応度に対する蛹の寄主サイズの効果は、寄生蜂が性比調節を行なっていた幼虫の寄主サイズのものと同様であることもわかっている。したがって、寄生蜂は蛹の寄主サイズに対しても性比調節を行なった方が適応的であると考えられる。しかし、実際には寄生蜂は蛹の寄主サイズに対して性比調節を行なっていなかった。以上のことから、寄生蜂は幼虫の寄主に特異的な情報を利用して寄主サイズを推定し、性比調節を行なっていると考えられる。これまで、私は幼虫の寄主に特異的な情報として摂食音の頻度に着目してきた。

本研究では、空カプセルの中に豆から取り出した幼虫の寄主を入れるという操作を行ない、摂食を行なわない幼虫を作成した。空カプセルの中にいる幼虫の寄主は摂食を行なわないため、寄生蜂は幼虫の寄主サイズがわからなくなると予測される。しかし、寄生蜂は空カプセルの中の幼虫の寄主サイズに対して性比調節を行なっていた。よって、寄生蜂は性比調節に寄主の摂食音を用いていない可能性が示唆された。

日本生態学会