| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-218

ゴキブリ類における社会性の発達とセルラーゼ遺伝子発現量の変化

*嶋田敬介,前川清人(富山大院・理)

社会性昆虫であるシロアリ類は、近年、ゴキブリ類内の単系統群となる事が強く示され、これらの家族構造を基盤とした社会性の進化には食材性が深く関わってきた。木材は難分解性で利用が困難であるために、食材性種では個体間の栄養交換や腸内容物の授受等の扶助行動は重要であり、この行動の獲得と社会性の発達には密接な関係があると考えられる。しかし、扶助行動の担い手・受け手となる各個体の木材分解能の差異は不明であり、その機能的意義に関する詳細は明らかではない。

本研究では、ゴキブリ類における食材性と社会性の関係及び個体間の木材分解能の差異を明らかにし、扶助行動の機能に関する考察を行う事を目的とした。食性及び社会性の異なる種を対象に、個体発生に伴う木材分解能の変化を、内源性及び共生生物の各セルラーゼ (エンドグルカナーゼ(EG), βグルコシダーゼ(BGL) ) 遺伝子の発現量で比較した。食材性かつ社会性の種(ネバダオオシロアリ、キゴキブリ、エサキクチキゴキブリ)では、初齢の内源性EG(及び共生生物EG )の発現量は、扶助行動の担い手(成虫や擬職蟻)より著しく低い事が示された。一方、食材性で非社会性の種(オオゴキブリ)では、初齢の内源性EGの発現量は相対的に高かった。内源性BGLにはこのような傾向はなく、全種で初齢の発現量は相対的に低かった。従って、特に内源性EG(及び共生生物EG )が木材の分解に重要であり、オオゴキブリの初齢は成虫と同程度の分解能を持つと考えられる。また、木材に依存せず非社会性の遠縁のゴキブリ数種を用い内源性EGの発現を解析した結果、食材性種の発現パターンは極めて特徴的で、食材性と社会性の有無に大きく関係している事が示された。

以上より、食材性種において初齢の木材分解能が低い場合には、その分解に関わる扶助行動を発達させる必要があった事が強く示唆される。

日本生態学会