| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-223

水路からの導水による再生湿地の植生変化

*佐久間智子(西中国山地自然史研究会),白川勝信(高原の自然館)

八幡湿原自然再生事業は2003年に始まった.湿原の再生にあたり,コンクリート水路の撤去と導水路による湿潤環境の復元が提案され,2007年,工事が着手された.

事業対象地は広島県北広島町東八幡原に位置する西中国山地国定公園内の県有地,17.5haである.八幡地区は周囲を1,000m以上の山々に囲まれた海抜800mの高原の盆地で,気候は冷温帯にあたる.年間の降水量は2,400mmから2,600mmと多く,冬の降雪量は2m近くに達する.

八幡盆地には大小様々な湿原が点在するが,乾燥化により,その面積は大幅に減少している.事業対象地である霧ヶ谷湿原もその一つである.霧ヶ谷湿原は1964年から1986年にかけて広島県によって大規模草地として開発され,コンクリート水路の設置による排水や表土の改変,牧草の播種などが行われた.その後,牧場が閉鎖され,現在は自然公園として利用されている.

湿原の再生にあたり,全体の工事の前に小規模な実験区を設けて植生の変化を観測した.実験は2003年から始め,基礎調査を行った翌2004年,実験地内に導水路を作った.川から実験地内に等高線に沿って鍬で溝を掘り,溝の横に畔波を立てた.その後,毎年植生調査を行い,現在5年が経過した.調査,作業は,西中国山地自然史研究会で行った.植生調査は経験者がリーダーとなり,グループに分かれて行った.

実験の結果,導水区ではヨシ,イ,ヒメシロネといった湿原生植物の種数・優占度の増加が確認された.対照区においてはこのような変化が認められなかったため,水路からの導水は湿原植生の復元において有効に働くことが確認された.

日本生態学会