| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-224

里地草地面積の減少が地域の種多様性に及ぼす影響 :草地生の絶滅危惧植物を指標として

*河野円樹(東大・院・新領域),河野耕三(宮崎県立宮崎農業高等学校),大澤雅彦(東大・院・新領域)

里地里山景観の一構成要素である草地環境の面積は、高度成長期以降の燃料革命、農地整備などによる土地利用形態の変化に伴い、全国的に減少し続けている。現在までに、さまざまな分野で草地保全に関する既往研究が存在するものの、地域スケールで草地環境の植物が持つ種多様性の役割をとらえた研究事例は少ない。草地環境との結びつきが残されている南九州の里山地域を対象に、その歴史的変遷を辿りながら、里山に成立する草地フロラの、地域の種多様性に果たす役割を明らかにすることを本研究の目的とした。九州南部宮崎県串間市の中山間地において、土地利用の履歴が異なる地域を集落単位で面積500m×500mの調査地区を4地区設置した。そのうち2地区では、300年以上前から牧草地維持のため火入れ、刈取りといったほぼ同様の管理形態が続いており、約30年前頃から管理放棄が進みつつある他2地区を対照地区とした。各地区内の草地環境において、火入れ・刈取り・畦畔などの管理形態区分ごとに植生・植物相調査を行い、生育するすべての種の量を明らかにした。また、草地環境の指標として4地区に共通していると考えられる草地生絶滅危惧種を抽出し、それぞれについて草地面積と個体数レベル(個体数密度)との関係を調べた。

現在も伝統的管理が続く地区と草地面積が激減した地区とでは、各草地生絶滅危惧種の個体数に大きな違いが現れており、その生存には、草地環境の歴史的管理形態とその面積が関わっていることが示唆された。草地面積が大きく減少した地区においても草地生絶滅危惧種が集中して残存しているのは、局所的ながらも伝統的管理が維持されているハビタットが存在するためと考えられる。

日本生態学会