| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-230

日本固有種ニホンテンの保全遺伝学的研究

*佐藤淳(福山大・生命工),細田徹治(耐久高校),尾関篤史(福山大・生命工),山口泰典(福山大・生命工),鈴木仁(北大・地球環境)

ニホンテンMartes melampusは食肉目イタチ科テン属に属する日本固有の哺乳類種であり、本州、九州、四国、対馬に自然分布する他、北海道では毛皮産業のために導入され、産業の衰退と共に野外に放たれた個体の子孫が分布を拡大している。本州、九州、四国に生息するホンドテンは冬季の毛色によりキテンとスステンに類別され、過去には別亜種として扱われたが現在は同一亜種とみなされている。一方、対馬に生息するツシマテンは別亜種としてみなされ、絶滅危惧II類(VU)に指定されている。以上のようにニホンテンは毛色変異(ホンドテン)、島による地理的隔離(ツシマテン)、人為的移入(北海道のニホンテン)といった遺伝的多様性に影響を与える要因を歴史的に経験しているが、遺伝的集団構造は明らかではない。生物の保護、管理において重要な課題は保全の単位を明確にすることであり、遺伝的な集団構造を明らかにすることは必須である。本研究では、ニホンテン24個体(キテン10個体、スステン11個体、ツシマテン3個体)を対象に、母系遺伝するミトコンドリアゲノムよりCytochromeb遺伝子とD-loop領域、また父系、母系共に遺伝系譜の追跡が可能な核ゲノムよりRAG1遺伝子エクソン領域とPRKCI遺伝子イントロン領域に着目し分子系統学的解析を行った。結果、集団構造は毛色変異とは関連性を示さず、地域による遺伝的分化を示した。このことは調和配偶、あるいは適応が毛色に関して生じていないことを示唆する。また、ツシマテンは他のニホンテンとの遺伝的分化を示したが、同等の分化が東/西日本のホンドテン間で見られた。従って、保全単位の再考を要すると考えられる。

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