| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-235

屋久島生態系保全におけるヤクシカモニタリングのあり方

*立澤史郎(北大・文・地域),川村貴志(屋久島生物部),松田裕之(横国大・環境情報)

屋久島では,増加したヤクシカ個体群による採食圧等のため,農林業被害と生態系被害が増大し,両方の対策を同時に進めてゆく必要に迫られている.このため過去3年間にわたり,ヤクシカ個体群と草本植生の分布状況,二つの被害問題とヤクシカ管理に対する住民の意識調査などが行われ,その成果として島を3地域に分割した管理案と,各地域内の重点監視地区における集中的なモニタリングが提言された(既報).ここでは,その後住民が主体となって試行されてきたヤクシカモニタリングの内容と課題について報告する.

重点監視地区は,西部(11.0km),小瀬田(5.5km),南部の3地区設定され,このうち西部と小瀬田については2005年8月から月1回,著者の一人である川村が中心となってスポットライトカウント法によりヤクシカの相対密度を調査してきた.

この結果,両地区の目撃密度には有意な差があり(paired t, p<0.01),また両地区とも出産期(夏期)を中心としたピークを持つ増加傾向を示した.さらに有害捕獲実施者である上屋久猟友会の協力を得てモニタリング結果と有害捕獲結果とを対応させると,モニタリング期間中に有害捕獲が行われた小瀬田地区については,捕獲実施時期の前後で目撃密度に有意な減少があった.ただし,全体を通じては,捕獲だけでは説明できない増減が両地区ともにあり,発見効率および季節移動の可能性の検討が必要であった.

一方,社会的側面では,住民自身が実施することにより,二つの被害問題,およびヤクシカの生息状況に対する地元の関心が高まり,また,意思決定システムに住民自身が参加する基盤を作るという点でも効果があった.今後は,これまで試行してきたモニタリングを公的に行う体制とそれを基盤とした意思決定システムの構築,捕獲圧の増大に伴う変化の検出体制などが課題となる.

日本生態学会