| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-285

2007年9月の大規模出水が多摩川の造成礫河原の植生に及ぼした影響

*畠瀬頼子(自然環境研究センター),阿部聖哉(電力中央研究所),長岡総子(東京環境工科学園),和田美貴代(東京大学),一澤麻子(横浜植生研究会)

多摩川の中流部に位置する永田地区では、2001年から2002年にかけて減少著しい礫河原植生の復元を目的に河道修復事業が行われた。この事業では礫河原の造成が行われたが、造成から5年が経過した2007年春期には、低木が侵入した場所や一・二年生草本群落から多年生草本群落への遷移が進んだ場所が増加していた。しかし、昭和57年以来の規模となる2007年9月の台風9号は、戦後第3位の水位(河口から27.8km地点)を記録し、遷移の進みつつあった礫河原造成区域は大きく洪水の影響を受けることとなった。

礫河原造成の開始直前の2000年秋期以来、我々は年2回(春期および秋期)、礫河原造成区域周辺の植生調査と植生図作成を行い、植生の面的変化状況をモニタリングしている。これまでに作成した7年間の植生図と2007年9月の出水後の植生図を比較し、大規模出水が造成礫河原の植生に及ぼした影響を検討した。

造成礫河原のうち、年2回程度の冠水を受ける高さのC〜E工区では、2007年9月の出水により大部分の植生が流失し、植生のない礫河原が広がる環境となった。年2回程度から5年に1回程度まで様々な冠水頻度になるよう傾斜がつけられたB工区では、2007年までは比高の高い場所や主流路から離れた場所で多年生草本が増加し遷移が進行しつつある一方、比高の低い場所および主流路に近い場所で比較的被度の低い植生が持続する傾向が見られた。しかし、2007年9月の出水で被度の低い植生が持続していた場所では植生が流失して裸地化した。一方、多年生草本群落の発達しつつあった場所の一部で多くの砂が堆積し、ススキ群落へとさらに遷移が進む傾向も見られた。大規模出水による撹乱の影響は、比高だけでなく、冠水前の植生状況によって異なるものと考えられた。

日本生態学会