| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-302

飼育下におけるトゲスギミドリイシの遺伝的多様性

*磯村尚子(琉球大・院・COE), 山本広美(沖縄美ら海水族館)

沖縄美ら海水族館は、造礁サンゴの大規模展示を行っている世界でも数少ない水族館である。なかでもトゲスギミドリイシは群体数も多く、2002年から5年連続産卵が確認されている。しかし、現在飼育されている約3000群体のトゲスギミドリイシは、1995〜1997年に水族館前の海域で採集された72群体から破片化により増殖したものであり、多くの群体は遺伝的に同一なクローンであると予想される。

そこで本研究では、(1)水族館トゲスギミドリイシ集団の遺伝的多様性、(2)遺伝子型と交配成功の関係、を推定することを目的とした。

2006、2007年に、水族館のトゲスギミドリイシ群体(以下、水族館群体)と野外の群体(以下、野外群体)を用いて交配実験を行ない、媒精後、受精率・生残率を測定した。さらに水族館群体と野外群体について遺伝子解析を行なった。

交配実験では、野外群体と水族館群体間のすべての組み合わせで受精、発生が確認された。しかし、水族館群体同士では一部の組み合わせで受精がみられなかった。遺伝子解析の結果、野外群体と水族館群体では同じ遺伝子型は確認されず、水族館群体で受精がみられなかった群体同士は同じ遺伝子型を示した。しかしながら、遺伝子型の類似度と受精率には相関関係はみられなかった。また、水族館集団のアリル多様度および平均へテロ接合度は野外集団よりも低い値を示した。

美ら海水族館水槽で継続飼育されたトゲスギミドリイシは、正常な配偶子をつくることが知られている。このことから、今回の交配成功に影響したのは遺伝子型であると考えられる。また、水族館集団の遺伝的多様性は低い傾向が示された。今後は、水族館で蓄積しているデータと併せることで、飼育サンゴの維持・管理に役立てることができるだろう。

日本生態学会