| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P1-303

植物の多様性のホットスポットである浮島湿原(霞ヶ浦)におけるカモノハシの指標性

*野副健司(東大・農),西廣 淳(東大・農),鷲谷いづみ(東大・農)

霞ヶ浦南岸にある「浮島湿原」は、関東平野有数の規模(約52ha)のヨシ原である。その下層には全国、県レベルの希少種・絶滅危惧種19種を含む数多くの湿生植物の生育が認められている。しかし近年、下層における優占種が置き換わるなど顕著な植生の変化が報告されており、適切な指標を用いた保全上重要な種とその生育環境のモニタリングが必要となっている。

予備的な調査から、下層にイネ科カモノハシが優占し、その株元に微高形が発達している場所に、絶滅危惧種を含む多くの湿生植物が集中して生育している推測が得られた。本研究では、浮島湿原におけるカモノハシの植物の指標種としての妥当性を検討するため、1.ルート調査、コドラート調査によって、メソスケールでのカモノハシと重要種の分布、植物の多様性の関係、2.ミクロサイトスケールでの微高地と重要種の分布の関係、3.カモノハシ優占域の水文学的条件、水質条件、人為の利用・管理の履歴の特徴について検討した。

その結果、カモノハシ優占域でも地表面まで明るい場所において、微高地上に蘚類が生育し、重要種の多くが偏って分布していた。この場所では他の植生タイプよりも1m2あたりの在来種の種数が約2倍高かった。重要種の多くは周囲の地盤よりも冠水日数が短い微高地上に偏って分布していた。蘚類の生えるカモノハシ優占域では、他の植生タイプよりも比高が高く、各種栄養塩濃度が低い値を示した。また冬季の刈り取り・野焼きは、最近10年においてほぼ毎年行われていた。

カモノハシと蘚類の組み合わせは、浮島湿原における湿生植物の多様性のモニタリングの指標として有効であることが示唆された。また冠水頻度の増加や栄養塩類の流入の増加、伝統的な利用・管理の停止は、カモノハシや蘚類とともに多様な植物の衰退・消失を招く可能性があることが示唆された。

日本生態学会