| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-030

広域スケールの環境要因が耕作水田の成立植生に及ぼす影響

*山田晋(農業環境技術研究所), 楠本良延(農業環境技術研究所), 徳岡良則(農業環境技術研究所), 山本勝利(農業環境技術研究所)

耕作水田は,絶滅の恐れがある種を含む多様な湿生植物の生育地である.農業生態系の有する豊かな生物生息機能は,持続可能な農業の展開にあたり利用・配慮すべき事項と認識されつつある.しかし,水田に生育する植物の分布状況や,生育に適した立地条件など,水田における生物相の基礎的な知見すら欠如している現状である.水田に生育する植物には,河川,沼沢地,湧水地などを本来の生育地とする,湿地生植物も含まれると考えられる.そして現在でも,水田に成立する植生は立地条件に応じて異なっているかもしれない.本研究では,水田に生育する植物相が地形単位に応じて異なるという仮説のもと,異なる地形域で水稲作が展開されている茨城県南部の20 × 20kmの範囲において植生調査を実施した.稲刈り後の耕作水田において,連続する10個の1 × 1 mコドラートからなる10m2のプロットを240設置した.

各調査区における種組成データを多変量解析の序列化手法の1つであるDCAにより解析し,成立植生の種構成の変異を,主要な2つの軸のスコアによって抽出した結果,DCA軸のスコアは,圃場整備の有無,圃場の水分条件,水田が位置する地形条件について有意に異なった.RDB掲載種で解析に十分な出現頻度だった種には,圃場整備の有無には出現傾向が変化せず,特定の地形条件にのみ出現傾向が偏るものが認められた.ミズニラは台地に開析された谷底低地,ミズネコノオは河川蛇行原の適湿な低地に生育が限られた.絶滅危惧種などの保全を行う場合には,地形条件への配慮も必要であると考えられた.

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