| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-037

環境情報の構築による流域の景観構造とその機能評価に関する景観生態学的研究

磯崎由行(広島大・院・国際協力)

本研究は、広島県安芸高田市八千代町に位置する土師ダムの上流域を対象として、流域を単位とする地域環境計画に有用な技術的提言を行う事を念頭に、流域の階層構造とその内部における物質動態を評価するために有効な解析方法を、景観生態学的なアプローチにより検討する事を目的とするものである。

流域構造を定量的に把握する手法として、流下方向マトリクスによる仮想的な流路網の抽出と流路地数による流路の階級付けを行い、流路構造のフラクタルな組み上がりを明らかにした。次に、対象地域の景観構造を明らかにするために、空中写真のオルソ幾何補正とGIS上での直接判読による土地利用構造の定量的把握を行った。

それらの成果を踏まえ、対象地域を構成する小流域の階層性と連結性に着目した土地利用構造の類型化を行った。流域の入れ子構造と土地利用の解析から、小流域の土地利用は全体的には次数によらずほぼフラクタルな構造をしており、流域の階層構造と土地利用の解析から、流路次数の上昇に伴って森林的土地利用と人為的土地利用がトレードオフの関係にある事が判った。また、小流域のダム湖への流達経路と土地利用の解析から、次数が等しい各小流域について、景観構造のバリエーションと流達経路の違いにはある程度関連がある事が示された。

更に景観生態学的機能として富栄養化物質の移動に注目し、対象地域で実測された全リン流出量と土地利用・人口・排水処理区分・家畜飼育状況の関係を、構造方程式モデルを利用して明らかにした。その結果、全リンの流出量は景観要素を説明変数とする1次式で表され、景観要素ごとの全リンの排出原単位とその年変動を把握する事ができた。また、仮想的な人口増加シナリオを設定し、環境変化の予測から地域的な全リン排出量の変化を推定する方法を提示した。

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