| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-043

長野県小谷村における伝統的茅場の植生動態

*井田秀行,池谷友希子(信州大・志賀自然教育研)

長野県北部の小谷村にはかつて、屋根の材料としてオオヒゲナガカリヤスモドキ Miscanthus intermediusを収穫するカヤ場が一帯に広がっていた。同種は一般的な屋根材であるススキよりも質が良いとされ、小谷村では古くから重宝されてきた。同村のカヤ場のほとんどはスキー場などに改変されたが、唯一残されたカヤ場(約25.3ha)では、現在も主に集落と茅葺き職人とで維持管理(春:火入れ、秋:収穫)が続けられている。ところが最近、このカヤ場ではススキが増加し、良質なオオヒゲナガカリヤスモドキが減少傾向にあるという。そこで、伝統的なカヤ場の景観構造を明らかにし、ススキが増えている原因を探ることで、良質なオオヒゲナガカリヤスモドキの安定した生産につながるような方策を講じる。

本報告では、火入れから収穫までの植生動態を観測し、カヤ場の現状を生態学的に把握することを目的とした。まず、カヤ場の植生動態の把握のため、2007年5月の火入れ直後に1m×1mのプロットを両種の優占区にそれぞれ10ヶ所設置し、プロット内に出現した維管束植物の種名の記載と、種毎の植被率と高さの測定を、約2〜4週間毎に10月の収穫直前まで行った。火入れ後約1ヶ月間で全体の植被率は平均約90%となったが、カヤ類の成長が安定期に達したのは8月中で、背丈は概ね2m前後であった。オオヒゲナガカリヤスモドキとススキの成長過程を比較すると、植被率、背丈ともにススキの方がやや早く増大する傾向があった。さらに、これら両種の優占区それぞれにつき各5プロットにおいて、収穫直前に地上部を刈り取り、その現存量から検討を加えた結果、一次生産量はススキの方がやや高いことが推察された。また、ススキは夏以降にも新たな葉鞘をいくらか伸長させていた。

以上のようなススキの増大の要因には、近年の収穫面積の減少が関わっている可能性がある。

日本生態学会