| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-129

栃木県奥日光における森林棲コウモリ類の自然林と人工林との捕獲個体数比較

*吉倉智子,上條隆志(筑波大・院・生命環境),安井さち子(茨城県つくば市)

森林棲コウモリ類の多くは減少傾向にあることが指摘されている.生息環境として原生林が重要であるといわれているが,日本において,森林棲コウモリ類と森林との関係を扱った研究は乏しい.本研究では,森林棲コウモリ類は人工林よりも自然林を多く利用するのか,また,流路がある森林をより多く利用するのかを検証するために,森林タイプごとの捕獲個体数の比較を行うことを目的とした.

調査は2007年6月から9月,栃木県日光市奥日光で行った.調査地点は(1)流路に隣接した自然林,(2)流路の無い自然林,(3)流路に隣接した人工林および(4)流路の無い人工林にそれぞれ5ヶ所ずつ設定し,1晩1地点計20晩,終夜行った.各地点では,流路(隣接している地点のみ),林道および林内にかすみ網を設置し,それぞれの捕獲個体数を比較した.計4属8種161個体が捕獲され,最も多かった4種は順に,モモジロコウモリ,ヒメホオヒゲコウモリ,コテングコウモリおよびウサギコウモリであった.流路および林道に設置したかすみ網では,自然林と人工林との総捕獲個体数の間に有意な差は見られなかった(U検定,P>0.05).一方,林内に設置したかすみ網では,人工林に比べ,自然林の総捕獲個体数が有意に多かった(U検定,P<0.01).さらに林内では,(1)の森林タイプは,(2)・(3)・(4)の森林タイプに比べ,有意に総捕獲個体数が多かった(Kruskal-wallis検定,P<0.01).種ごとにみても,モモジロコウモリおよびヒメホオヒゲコウモリにおいて,同様の結果が得られた.以上の結果から,本調査地域の夏季における森林棲コウモリ類にとって,自然林と流路の組み合わせが生息環境として最も重要であることが示唆された.

日本生態学会