| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-148

森林利用が小型哺乳類の栄養段階に与える影響

*中川弥智子(名古屋大),兵藤不二夫(スウェーデン大),中静透(東北大)

東南アジアでは商業伐採や農地への転換などにより急速に森林面積が減少する一方で、人口増加に伴い焼畑の利用周期が短縮するなど森林の劣化も懸念されている。また換金作物として天然ゴム生産のためのゴム林が焼畑休閑林に混在し、かろうじて残った原生林も島状に取り残され孤立している。このような人間活動による森林利用が小型哺乳類に与える影響を評価するこれまでの研究では、小型哺乳類の種組成や個体数に注目した報告が多かった。しかし、森林利用に伴う生息環境の改変は小型哺乳類にとっての餌資源を変化させる可能性があるため、小型哺乳類が摂食する餌が変わり栄養段階にも影響を及ぼすことが予想される。そこで本研究では、安定同位体分析の手法を用いて、森林利用が小型哺乳類の栄養段階に与える影響を評価することを目的とした。調査はマレーシア・サラワク州・ランビルヒルズ国立公園(原生林)、及びその周囲に広がる原生林の孤立林、焼畑休閑林、及びゴム園で行った。

補正した窒素同位体比の比較から、より強度の撹乱を受けた森林に生息するネズミ類は、弱度の撹乱を受けた森林または原生林に生息するネズミ類より栄養段階が高いことが分かったが、リスやツパイ類ではその傾向は認められなかった。また同様の結果が種レベルでも検出された。これらの結果は、(1)より強度の撹乱を受けた森林に生息するげっ歯類は昆虫などの一次消費者を、弱度の撹乱を受けた森林または原生林に生息するネズミ類より多く摂取していること、(2)森林利用が小型哺乳類の栄養段階に与える影響は分類群によって異なること、(3)窒素の安定同位体比は森林利用に伴う食物網構造の変化を検出する有効な指標であることを示している。

日本生態学会