| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-153

魚食性魚類の捕食−被食関係に見られる左右性の影響とその広がり

*八杉公基, 堀道雄(京大院・理)

左右性とは、動物で右体側と左体側について一方が他方よりも構造的・機能的に優位にあることを指す。これは左右対称性のゆらぎとは異なり、個体群中に右体側が発達する右利き個体とその逆の左利き個体の二型があるとする考え方である。最近の研究では、左右性は魚類に普遍的に存在することが示唆されている。

左右性が注目されるのは、この形質が捕食者−被食者の相互作用を介し両者の個体群動態、ひいては群集構造に影響を与えることが分かってきたからである。相互作用に関わるメカニズムとして、捕食者は自分と同じ利きの被食者を捕らえる(並行捕食)場合よりも、逆の利きの被食者を捕らえる(交差捕食)場合の方が有意に多いことが、数種の魚食性魚類で明らかにされている。こうした対応関係が生じる原因としては、捕食行動および捕食回避行動に個体の利きから生じる優位な方向があり、捕食者と被食者の組み合わせに応じて、捕食成功率および回避成功率が変わるためだと考えられる。また数理モデルから、交差捕食が多く起こることで双方の左右二型が動的に維持されることが証明されている(Nakajima et al., 2004)。

しかしどの捕食−被食関係でも交差捕食の方が多く起こるのだろうか。行動の方向性の組み合わせに基づく現象であるなら、被食者との遭遇パターン次第で、異なった傾向を取ることも考えられる。

これを明らかにするため、オオクチバス・ブリ・アンコウという捕食生態の異なる3種を用い、胃内容分析から捕食者と被食者の利きの対応関係を比較した。その結果、前2種では交差捕食の方が多く起こっていたが、アンコウでは被食者によって異なる傾向が認められ、ホタルジャコでは並行捕食が、クラカケトラギスとアカハゼでは交差捕食が多く生じていた。以上のことから、魚類の種間相互作用にはその左右性と生態型が密接に絡み合って影響していると考えられる。

日本生態学会