| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-169

マイクロサテライトマーカーを用いた石西礁湖のコユビミドリイシの集団遺伝学的研究

*中島祐一(琉球大学・理工・海洋環境),西川昭(ジェームスクック大学・比較ゲノミクスセンター),酒井一彦(琉球大学・熱帯生物圏研究センター瀬底実験所)

琉球列島内に位置する石西礁湖は日本最大のサンゴ礁域であり、学術的にも経済的にも貴重であるが、サンゴの被度は減少しつつある。サンゴは配偶子および幼生の発生初期段階でしか長距離分散できないため、幼生分散に注目した地域個体群の交流パターンの解明は個体群の維持・回復機構の理解に必須である。本研究では石西礁湖のサンゴ礁において優占種であるコユビミドリイシ(Acropora digitifera)の遺伝子流動を調べた。時間的・空間的な遺伝子の動きである遺伝子流動は、個体群の維持機構や繁殖、分散を考える上で極めて本質的で、個体群の交流パターンを推測するために重要と考えられる。環境省がシミュレーションで推定したサンゴ幼生の供給源と供給先では、遺伝子流動の程度が大きくなるという仮説を立て、包括的なサンゴの交流パターンを把握することを目的とした。

石西礁湖内で6地点選定し、コユビミドリイシから群体片を採取し、開発済みの6種類のマーカーを用いて群体片毎のマイクロサテライト領域の長さを調べた。さらに、地点毎の対立遺伝子数と対立遺伝子頻度より平均ヘテロ接合頻度を求め、地点間の遺伝的分化係数であるFST(Wair and Cockerham, 1984)をコンピュータープログラムであるGenAlExを用いて算出した。FSTの値が小さいほど遺伝子流動の程度が高い。

その結果、全地点におけるサンゴ個体群間のFSTは0.01程度の低い値であることがわかった。つまり、石西礁湖内のコユビミドリイシは遺伝子流動の程度は高く、拡散シミュレーションから推定されるような交流パターンは見られなかった。コユビミドリイシは放精放卵型という繁殖様式をもつため、石西礁湖内においては遺伝的にほぼ均一であると考えられる。

日本生態学会