| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-175

生態化学量論からみた植食性昆虫の生活環

加賀田秀樹(京大・生態学研究センター)

植食性昆虫の餌としての寄主植物の質は、一般に季節の進行にともなって低下する。そのため、異なった時期に発生する植食性昆虫では、質の異なった植物を利用していることが推測でき、それぞれの餌の質に対応して異なった生理的反応を示すと予測できる。本研究では、共にヤナギを利用し、発生時期の異なる2種のハムシ(ヤナギハムシ、ヤナギルリハムシ)を用いて、生態化学量論の観点から上に述べた予測を検証した。その結果、1)野外では、ヤナギの葉のC:N比は季節の進行とともに上昇し、より早い時期に出現するヤナギハムシは、遅い時期に出現するヤナギルリハムシに比べて、よりC:N比の低い(窒素成分の豊富な)餌を利用する事ができた。2)実験的にC:N比の高い餌を摂食させたところ、ヤナギハムシは成虫まで発育を完了させることができなかったが、ヤナギルリハムシは成虫まで発育することができた。3)同じC:N比の餌を摂食させた場合、ヤナギルリハムシのほうが炭素、窒素の利用効率が高かった。4)餌のC:N比に依存せず、ヤナギハムシのC:N比はヤナギルリハムシのそれに比べて恒常的に高かった、ことなどがわかった。これらより、出現時期の異なる2種のハムシでは、餌の質の違いに対して異なった生理的反応を示すことが明らかになり、この2種のハムシでみられた生活環の違いは、生態化学量論的な制約によって、部分的にではあるが説明することができた。

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