| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-257

高緯度北極陸上生態系の炭素循環に対する温暖化の影響:モデルによる予測

*中坪孝之(広島大・院・生物圏),村岡裕由(岐阜大・流域研),内田雅己(極地研)

北極域では、近年、急速な温暖化が観測されており、それにともなって生態系の炭素循環パターンも大きく変化しつつあると予想される。本研究では、高緯度北極陸上生態系の炭素循環に対する温暖化の影響を評価するために、生態系プロセスをベースとした炭素循環モデルを作成し、温暖化のシミュレーションを行った。このモデルは、高緯度北極スバールバール(北緯79度)の氷河後退域のキョクチヤナギSalix polarisと蘚類が優占する遷移後期の生態系を対象にしており、維管束植物の地上部と地下部、非維管束植物、それぞれの有機物層、鉱質土層の炭素プールから構成され、気象データから群落レベルの光合成、根の呼吸、従属栄養生物の呼吸および炭素プールの変化を推定するものである。現地で測定した生態系純生産量(NEP)のデータを用いてキャリブレーションを行った結果、少なくとも夏季については、十分な精度でNEPを推定できることが確認された。そこでこのモデルを用いて、温度上昇がNEPに与える影響を推定した。はじめに、ヤナギの着葉期間を一定とし、温度のみを変化させてNEPへの影響を調べた結果、温度上昇とともにNEPの値は小さくなり、4℃以上の温暖上昇のもとでは負の値をとる(炭素の放出源になる)という結果になった。次に、2℃の温度上昇で着葉期間が15日間延長すると仮定してシミュレーションを行ったところ、NEPの値は増加したが、現在の温度条件(温度上昇がない場合)よりは小さい値となった。また、NEPの温度依存性はヤナギのバイオマスによって大きく影響された。この結果から、生態系炭素循環に対する温暖化の影響が、優占する植物種によって大きく左右されることが示唆された。

日本生態学会