| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-271

14Cを用いた河川生態系の食物網における炭素起源推定

*石川尚人(京大・生態研),内田昌男(環境研),陀安一郎(京大・生態研)

河川生態系の多様な生物群集からなる食物網には、藻類や水生植物が光合成によって固定する無機炭素と、主に陸上植物の落葉に由来する粒状有機物という2つの大きな炭素起源が存在する。

現在、水域生態系の食物網研究では安定同位体比の利用が主流であり、生物と餌のδ13Cを測定することにより食物網の炭素起源を推定する手法が確立している。しかし河川生態系においては、主要な生産者であり、岩石の表面に生育する付着藻類のδ13Cが、樹木による被陰の有無や瀬淵構造などのミクロハビタットによって変動を示すことがある。このことは、しばしば上位の食物網の炭素起源推定に困難をもたらす。

そこで本研究では、天然に存在する炭素放射性同位体比(Δ14C)を用い、食物網の炭素起源推定を試みた。一般にΔ14Cは河川の堆積岩や土壌中の年代の古い炭素で低い値を示し、現在の大気CO2に由来する新しい炭素で高い値を示すと考えられる。この性質を利用し、無機炭素を固定する付着藻類と主に陸上植物に由来する粒状有機物とを明確に分離できれば、高精度の炭素起源推定が可能となるのではないかと考えた。

河川の上流部および流下過程で研究を行ったところ、付着藻類が非常に低いΔ14C値(-200 ~ -160‰)を、一方、粒状有機物が高い値(+30 ~ +50‰)をもつ河川があり、そのような河川では食物網の炭素起源に地下部の古い炭素が強く影響している可能性が示された。さらにこの河川で上流から下流にかけて生物(水生昆虫・魚類)のΔ14Cを測定し、食物網における付着藻類起源の炭素の寄与率を推定したところ、どの地点においても一様にδ13Cを用いた推定値よりも高くなることが示された。本発表ではδ13Cとの原理的な違いも含め、Δ14Cによる炭素起源推定法の利用可能性について議論する。

日本生態学会