| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-282

東ユーラシアにおける冷温帯〜寒帯樹木の個葉ガス交換の環境応答特性の収斂とそれに基づいた生態系の水循環の広域的予測(CREST・WECNoF−5年間の活動から)

小林 剛(CREST太田チーム/香大・農)

大気−森林間の物質循環において,森林生態系の局所・短期スケールの環境応答は,個々の林分で優占している植物種に特有な個葉のガス交換(光合成,コンダクタンスおよび蒸散) の環境応答特性に強い影響を受けている。一方,広域・長期スケールでは,様々な林分を構成する多様な植物の特性を包括した影響を受けていると考えられる。本報告では,寒帯〜冷温帯に生育する樹木種の個葉ガス交換の放射,温度ならびに飽差に対する応答特性のメタ解析に基づいて,気候帯・森林タイプそして樹種を越えた共通の個葉ガス交換パラメータを用いて森林生態系の物質循環を解析するための取り組みを紹介する。

調査・解析を行った研究サイトは東シベリア,カムチャッカ半島,北海道,本州中部〜中国地方におよぶ。 また,対象とした樹種にはカバノキ属,カラマツ属,マツ属,ナラ属などが含まれる。いくつかのサイトにおいて,各樹種の個葉の環境応答特性を制御条件と野外条件の下で測定した。樹種(由来サイト)間の応答特性の差異は,制御条件下よりも制御条件下での環境応答特性から自サイト以外の野外条件下でのガス交換を予測した結果において小さかった。また,全データをプールして環境応答特性をJarvisモデルによってパラメータ化し,2LMに組み込んで陸面の蒸発散やエネルギー交換をサイトごとに推定したところ,各サイトにおけるフラックス観測による実測結果とよく類似していた。

以上の結果から,野外条件下における樹木の個葉ガス交換の環境応答特性の見かけの収斂の存在と,それを適用した生態系の水循環の広域的予測が可能であることが示唆された。現在,上記の考え方と解析手法を他地域の森林へも適用するとともに,大陸河川の流域圏における水循環特性の現況把握と将来予測などに取り組んでいる。また,炭素循環の解析との連携や個葉ガス交換特性のデータベース化などを目指している。

日本生態学会