| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P2-288

森林渓流内の窒素・リン動態に関する原位置実験

谷尾陽一(京大・農),大手信人(東大・農),藤本将光(京大・農),Rich Sheibley(USGS),谷誠(京大・農)

これまで森林流域では、大気からの栄養塩負荷量の把握や流域における内部循環過程など数多くの研究がなされてきた。しかし、森林斜面から渓流へと流出した栄養塩類が、流下過程で受ける生物地球化学的反応に関して十分な理解がなされているとはいえない。本研究では、森林渓流内における栄養塩動態の解明を目的とし、森林渓流に2種類の栄養塩を添加し濃度変化を観測することによって、栄養塩の動態を解析する注入実験を行った。

調査は、滋賀県南部に位置する不動寺水文試験地で行った。実験方法は、NaCl、NaNO3およびKH2PO4の混合溶液を、調査区域に一定の速度で注入し、一定の区間におけるCl-、NO3-、PO43-の濃度変化を観測した。観測期間は2006年9月から2007年11月の間で、計12回調査を行った。調査地点は流域面積約430 haの山地渓流において、河道長約140 mの区画を設定した。

注入実験の結果、窒素は1年を通じて渓流内で濃度変化を示さなかったのに対して、リンは渓流内で常に減少傾向を示した。このことから、調査をおこなった流程では、外部から窒素が供給されても、渓流内で消費されず、流程外へと流下すると考えられた。これに対し、リンが供給されると、渓流内で速やかに消費・除去されると考えられた。発表では、明瞭な減少傾向を示したリンを中心に、渓流内の栄養塩動態に影響を与える生物地球化学的プロセスについて検討する。

日本生態学会