| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-007

常緑樹シラカシの葉における光合成と窒素分配の季節変化

*安村有子, 石田厚(森林総研)

常緑樹の葉は一生を通して様々な環境の変化を経験する。本研究では、シラカシの葉の光合成能力や窒素分配が季節や加齢とともに複雑に時間変化することを明らかにした。

調査は2006年7月から2007年8月にかけてつくば市の森林総合研究所付属樹木園で行った。シラカシ成木の林冠外部のシュート(明シュート)につく当年生葉は年間を通して強い光条件下にあった。展葉開始の初夏から窒素含量・光飽和光合成速度ともに上昇し、光合成は夏にピークを迎えた。その後、光合成は秋から冬にかけて徐々に減少したが、窒素含量・タンパク質含量は逆に増加していた。Fv/Fm値が減少したことから、冬には光阻害が起きていたと考えられる。一方、ルビスコ活性状態は夏と同程度であった。春から初夏にかけて、光合成能力は窒素含量とともに減少した。窒素は展葉中の新しいシュートへ転流されたと考えられる。一年生葉は当年生葉に被陰されていて、窒素あたりのクロロフィル含量が比較的高かった。光合成、窒素含量は夏から冬の間、あまり変化しなかったが、春から初夏にかけて大幅に減少した。その後、葉は枯死した。

林冠内部のシュート(暗シュート)の当年生葉においても、窒素含量は秋から冬にかけて緩やかに上昇していき、また春から初夏にかけて減少していた。明シュートの当年生葉とは対照的に、Fv/Fm値は夏と冬では差がなく、冬に光合成能力が低下することはなかった。一年生葉では春以降、窒素含量は徐々に回復していったが、窒素あたりの光合成速度は当年生葉よりも低かった。暗シュートの葉は明シュートよりも寿命が長く、平均して三、四年生きたのちに枯死していた。

日本生態学会