| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-038

雪崩撹乱による環境変化がシラビソ稚樹の光合成に与える影響

*三田村理子(茨城大・理),中野隆志(山梨県・環境科学研),山村靖夫(茨城大・理)

富士山の森林限界植生は、雪崩の影響を強く受けている。林冠木のみを破壊するような表層雪崩の発生は、その林床に生育していた植物に劇的な環境変化を与える。弱光環境に耐えうるように適応した極相種では、雪崩によって生じた強光環境に対する生理生態的特性の応答が限定的であり、物質生産が制限されることが予想される。これを検証するために、雪崩による林冠木の破壊から8年が経過した雪崩跡地と、雪崩撹乱を免れたカラマツ林の林床に生育する極相種シラビソ(Abies veitchii)の稚樹について、純光合成速度、蒸散速度、木部圧ポテンシャル、葉の窒素含量、ルビスコ含量、クロロフィル蛍光の最大量子収率Fv/Fmを比較し、雪崩撹乱による環境変化がシラビソ稚樹の光合成に与える影響を明らかにした。

雪崩跡地での純光合成速度、蒸散速度、気孔コンダクタンスの日変化は、林床でのものよりも低い傾向を示した。また、林床のシラビソと比べて、雪崩跡地のシラビソの飽和純光合成速度、光合成の窒素利用効率、ルビスコ含量、およびFv/Fmは低かった。これらの結果から、雪崩跡地での低い純光合成速度をもたらした要因の一つは、飽和純光合成速度の低さであり、これは主に、光合成系タンパク質への窒素分配の少なさ、強光阻害、および葉内でのCO2の拡散制限によって引き起こされたと考えられる。今回の研究から、シラビソは雪崩によって生じた強光環境に対する光合成系機能の十分な順化能力を持たず、その個葉の物質生産は環境ストレスによって制限されていることが示された。

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