| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-045

個葉の暗順化と個体の暗順化―異なる被陰方法に対する光合成能力の変化―

吉村謙一(神戸大自然科学),深山浩(神戸大農),石井弘明(神戸大農)

光環境に応じた樹木個葉の生理・形態的応答について、特に多くの場合ポット苗や苗畑実験を通して明るい環境下にある葉は光合成能力が高く、暗い環境下にある葉は光合成能力が低いといった順化反応がみられることがよく知られている。このことを森林に生育する樹木の個体レベルに応用するには、森林特有の光環境の不均一性を考慮に入れなければいけない。本研究では人工被陰によって光環境の不均一性を再現し、個葉の暗順化反応にどのような影響を及ぼすか調べた。

林冠ギャップ地に生育する光環境に差異がみられないチャンチン稚樹20個体を用いた。約75%の光を遮断する寒冷紗を用いて個葉の光環境を調節した。6月に全ての葉を被陰するFS、樹冠の3/4の葉を被陰するMS、樹冠の半分の葉を被陰するHS、1/4の葉を被陰するML、被陰処理を行わないFLの5種類の処理を各4個体に行い、9月に光合成を測定した。

非被陰葉はどの処理においても枯死率は低かったが、被陰葉の枯死率はFSでは低かったが、MS、HS、MLは多くの葉が枯死していた。光合成能力やRubisco含量も非被陰葉では処理間で差がなく高い値を示したが、被陰葉ではFSで中間的な値を示したのに対して他の処理の葉は低い値を示した。クロロフィル量は非被陰葉では総じて低く、被陰葉では総じて高かった。

これらのことから、同じように被陰された個葉でも個体全体が被陰されたFSと個体内に明るい葉があるMS、HS、MLでは生死や生理特性が異なり、個葉の光環境だけでなく個体内における相対的な光環境が光合成特性に大きく寄与していることが分かった。

日本生態学会