| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-047

シダレザクラとソメイヨシノの枝における組織構造の比較 −水分通導の観点から

*陶山健一郎(九大・生物資源環境), 作田耕太郎(九大・農)

シダレザクラなどに代表される枝垂れ性樹木の枝は著しい一次伸長成長を行うが,それに対し二次肥大成長が不十分なため,自重を支えきれずに屈曲し下方に向かって伸長すると言われている。この一次伸長成長と二次肥大成長の不均衡は道管などの組織構造にも影響を与え,葉や枝あるいは個体レベルの水分生理特性に関わっている可能性が高いと考えられる。しかしながら,枝垂れ性樹木の水分通導に関する研究はほとんど行われていない。本研究では,九州大学農学部構内に植栽されたシダレザクラとソメイヨシノ1個体ずつを対象にして,それぞれの樹冠の上部と下部を構成する枝について横断面観察を行った。横断面観察は枝1本につき基部,中央部,先端部とその中間点の5箇所で行い,各箇所の4方向において当年生部分の道管の密度および断面積を比較した。

シダレザクラ,ソメイヨシノともに道管の断面積は枝の基部から先端部に向けて小さくなっていた。また,枝の断面積はソメイヨシノのほうがシダレザクラよりも大きいにもかかわらず,各個体の道管断面積にはほとんど違いはなかった。一方,道管密度は両個体とも枝の基部で低く枝の先端部で高くなる傾向を示したが,シダレザクラのほうがソメイヨシノよりも高い値を示した。道管断面積と道管密度をかけあわせて当年生部分の単位枝断面積に占める道管総断面積の割合を調べたところ,シダレザクラのほうが5−10%程度高かった。

以上の結果より,シダレザクラはソメイヨシノよりも枝断面積に占める通水組織の割合が高いといえ,あて材などの機械的支持組織がシダレザクラの枝内では形成されないためと考えられた。また,道管断面積に差が無く,道管密度が高かったことは水ストレス発生時のキャビテーションの回避に有利であると考えられる。

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