| 要旨トップ | 日本生態学会全国大会 ESJ55 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-057

生態学的な光合成作用スペクトル:緑色光は光合成に効率よく使われる

寺島一郎 (東大・院・理・生物科学)

光合成有効放射の波長域はヒトの可視波長域と同じ400-700 nmである。多くの教科書に、「このうち光合成に良く使われるのは青色光と赤色光であり、緑色光は光合成にあまりよく用いられない。」と書かれている。本当にそうだろうか。

吸収スペクトルは、キュベットに色素溶液を入れて単色光を照射した時の吸光度 A を、波長に対してプロットしたものである。光の透過率を T(= 透過光/照射光)とすると A は、

 A = - logT

と表現されるものであり、実際の吸収率を表しているわけではない。緑葉の有機溶媒抽出液の吸収スペクトルを見ると緑色光はほとんど吸収されないようかのように錯覚するが、吸収率のスペクトルでは緑色光の吸収率は赤色光や青色光の半分程度はある。また、葉の内部の光散乱による光路長延長により、緑葉の緑色光の吸収率は赤色光や青色光の吸収率の80%程度にのぼる。吸収された緑色光は光合成に利用される。

一般に、光合成の最大量子収率は弱光下で測定する。したがって、葉の光吸収のほとんどが光合成色素によるものであれば、光合成の作用スペクトルは光吸収率のスペクトルとほぼ一致することになり、緑色域でやや低くなる。しかし、実際の葉には強い光もあたる。この場合、葉に吸収された光エネルギーのかなりの部分が熱として散逸される。葉の表面近くで吸収される青色光や赤色光は、光合成が光飽和した葉緑体に吸収される確率が高いので熱になる割合も葉の内部に透過する緑色光よりも高い。したがって、照射される光強度によっては緑色光の方が光合成によく使われることにもなる。

このような観点から緑色光の効率を定量的に検討している。データを紹介し、議論したい。

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